第8話:【前工程・装置編】回路形成と洗浄・成膜を支配する企業群(東京エレクトロン、SCREEN、KOKUSAI、レーザーテック、荏原製作所、マルマエ)
第7話では、半導体の微細化を支える「材料(フォトレジスト・CMPスラリーなど)」の世界を見ました。
第8話では、これらの材料を実際に使い、ウェハー上にナノレベルの回路を形成し、削り、洗う「前工程の製造装置」の世界に迫ります。
1台数十億円〜数百億円という巨大な装置を扱う企業で、日本株市場における売買代金の主役銘柄たちが集う分野です。各工程において、日本企業がどれほどのシェアと参入障壁を築いているのか、客観的なデータに基づき解説します。
1. 塗布・現像装置(コータ・デベロッパ)の絶対王者
前工程において、ウェハーにフォトレジスト(感光液)を均一に塗り、光を当てた後に不要な部分を洗い流して回路の溝を作る装置を「コータ・デベロッパ(塗布・現像装置)」と呼びます。
【市場シェア】
- 東京エレクトロン(8035):世界シェア約90%(EUV向けは100%)
この分野において事実上の独占状態を築いている世界トップ企業です。特に最先端のEUVリソグラフィ向けコータ・デベロッパにおいては、現在世界シェア100%を維持しています。
【市場が寡占状態にある理由(高い参入障壁)】
コータ・デベロッパは、オランダASML社の露光装置(1台数百億円)と直接連結されて稼働します。ASMLの装置と完璧に連動してナノレベルの化学反応を制御するソフトウェア・ハードウェアの「すり合わせ技術」が不可欠であり、ASMLおよび半導体メーカーと長年にわたり共同開発を続けてきた実績と特許網が、他社の新規参入を物理的に阻んでいます。
2. ウェハー洗浄装置のトップランナー
半導体製造プロセスにおいて、最も頻繁に行われるのが「洗う」工程です。ウェハーに少しでも微細なゴミ(パーティクル)が付着していると回路がショートするため、工程の合間に何度も何度も洗浄が行われます(全製造工程の約30〜40%を占めます)。
【市場シェア】
- SCREENホールディングス(7735):枚葉式洗浄装置 世界シェア約40〜50%(首位)
ウェハーを1枚ずつ精密に洗う「枚葉式(まいようしき)」洗浄装置において、世界シェアのトップを握る絶対的な主役です。 - 東京エレクトロン(8035):複数枚をまとめて洗う「バッチ式」洗浄装置において高いシェアを持ち、枚葉式でもSCREENを激しく追従しています。
【市場が寡占状態にある理由(高い参入障壁)】
回路がナノレベルで微細化すると、単に水圧でゴミを吹き飛ばそうとするだけで「繊細な回路そのものが水圧で倒れて壊れる(パターン倒壊)」という物理的な壁に直面します。回路を一切傷つけずにナノレベルの異物だけを化学薬品と特殊な超音波で取り除く流体制御のノウハウは、一朝一夕で真似できるものではありません。
【市場規模と成長予測】
- 市場規模:洗浄装置市場全体で約60億〜80億米ドル(約9,000億〜1兆2,000億円)規模の巨大市場です。
- 投資家が知るべき事実:半導体の微細化・3次元化が進めば進むほど、「洗う回数」が増加するため、装置の販売台数も比例して伸び続ける構造にあります。
3. 膜を積み重ねる「成膜装置(ALD/CVD)」の支配者
ウェハーの上に、絶縁膜や電極となる金属膜をナノレベルの薄さで形成する工程が「成膜(せいまく)」です。特に、ウェハーを数十枚〜100枚以上まとめて炉に入れ、一気に膜を形成する「バッチ式」と呼ばれる装置分野で、日本企業が圧倒的な強さを見せています。
【市場シェア】
- KOKUSAI ELECTRIC(6525):バッチ式ALD/CVD装置 世界シェア約50%超(首位)
一度に大量のウェハーを処理するバッチ式成膜装置において、世界トップシェアを誇ります。メモリ(NAND・DRAM)大手への導入に極めて強い基盤を持ちます。 - 東京エレクトロン(8035):同分野においてKOKUSAIと世界市場を二分する強力なライバルです。
【市場が寡占状態にある理由(高い参入障壁)】
100枚のウェハーの隅々まで、原子1個分の厚さ(ALD:原子層堆積)で均一にガスを浸透させ、数百度の高温をムラなく制御する熱処理技術は、まさに職人技の極致です。メモリの「焼き加減」に直結するため、一度採用された製造ラインから他社製装置に切り替えることは事実上不可能です。
【市場規模と成長予測】
- 投資家が知るべき事実:NANDフラッシュメモリが「100層、200層、300層」と高層ビルのように縦に積み上がる(3D化)ほど、この成膜工程が不可欠になります。AIデータセンター向けのメモリ増産がダイレクトに業績を押し上げる構造です。
4. EUVマスク欠陥検査装置の唯一無二
第7話で解説した「EUVマスクブランクス」に回路が描かれた後、そのマスクに「原子レベルの傷やゴミがないか」を検査する極めて高度な装置です。
【市場シェアと参入障壁】
- レーザーテック(6920):世界シェア100%
光源にEUV(極端紫外線)を用いた最先端のパターンマスク欠陥検査装置(ACTIS)において、現在世界で唯一、装置を商用化・量産できている企業です。米KLAなどの巨大競合を寄せ付けず、シェア100%を独占しています。 - 高い参入障壁:競合他社が「EUV光源を使った検査は技術的に困難」と撤退する中、同社は数年にわたる研究開発を続け特許網を構築。TSMCやIntel等の最先端ラインには同社の高額装置(1台数十億円)を入れる以外の選択肢が存在しません。
5. 回路を削る「CMP装置」と精緻な「真空パーツ」
最後に、ウェハーを平坦に削る工程と、これら巨大装置を支える部品の領域です。
- 荏原製作所(6361):CMP装置 世界シェア約30%(第2位)
化学的機械的研磨(CMP)装置において、米アプライド・マテリアルズに次ぐ第2位。半導体の3D化に伴い「平らに削る」工程が激増しており、消耗部品やメンテナンスによる継続収益(リカーリング)が手堅く積み上がるビジネスモデルを持っています。また、製造工程に不可欠なドライ真空ポンプでも世界トップクラスです。 - マルマエ(6264):半導体製造装置向けの精密真空パーツ
東京エレクトロンなどの巨大装置メーカーに向けて、装置の骨格となる「真空チャンバー」などの超精密加工部品を供給しています。装置メーカーの受注動向に先行して業績が連動しやすい「先行指標銘柄」として、日本の投資家から常に注視されています。
これらの日本企業は、最先端の半導体を作る上で「物理的に避けて通れない関所」となっています。
続く第9話では、ウェハーがチップごとに切り分けられた後の「後工程(パッケージング)」に焦点を当てます。近年、AI半導体の進化の主戦場となっているこの領域で、圧倒的なシェアを持つ日本の材料メーカー(イビデン、新光電気工業など)について解説します。
