第12話:価格の平均化とグランビルの法則「移動平均線(SMA・EMA)」
これまでの章では、ダウ理論やエリオット波動など「チャートの構造や波の形」を分析してきました。第12話からは、これらの波を計算し、トレンドの方向性や強さを視覚的に補助する「インジケーター(テクニカル指標)」について解説します。
その中でも、世界中のあらゆるインジケーターの基礎であり、最も多くのトレーダーに見られているのが「移動平均線(Moving Average = MA)」です。
移動平均線とは何か?(事実としての定義)
移動平均線とは、過去の一定期間の終値を平均化し、その数値を繋ぎ合わせて折れ線グラフにしたものです。日々の細かなノイズ(ヒゲや突発的な値動き)を滑らかにし、「現在、大衆の建値(平均取得単価)はどの方向へ向かっているか」という事実を可視化します。
代表的なものとして、計算方法の異なる2つの種類が存在します。
1. 単純移動平均線(SMA:Simple Moving Average)
最もオーソドックスな移動平均線です。指定した期間の終値をすべて足し合わせ、単純にその日数で割って算出します。
過去5日分の終値の和 ÷ 5
- 特徴: 過去の価格も直近の価格も「すべて平等」に扱います。
- 事実: 全体を均等に平均化するため、滑らかで騙しが少ない反面、直近の急激な値動きに対する反応が遅れる(遅行する)という物理的な特性があります。
2. 指数平滑移動平均線(EMA:Exponential Moving Average)
SMAの「反応が遅い」という弱点を補うために開発された移動平均線です。過去の価格よりも「直近の価格」に大きな比重(ウェイト)を置いて計算します。
※5日EMAの場合、今日の比重は「2 ÷ (5日 + 1) = 1/3」となり、残りの「2/3」が過去の比重になります。
今日のEMA = (今日の終値 × 1/3)+(前日のEMA × 2/3)
この式にある「前日のEMA」を計算するには、「1日前の終値」と「2日前のEMA」が必要です。
さらに「2日前のEMA」を計算するには、「2日前の終値」と「3日前のEMA」が必要です。
このように、計算式の中に過去のEMAがマトリョーシカ人形のように無限に内包されているため、これを展開すると以下のようになります。
(今日の終値 × 1/3)
+(1日前の終値 × 2/9) ※1/3の2/3
+(2日前の終値 × 4/27) ※2/9の2/3
+(3日前の終値 × 8/81) ※4/27の2/3
+(4日前の終値 × 16/243) ※8/81の2/3
+(チャートの最初まで、無限に2/3を掛けながら足し続ける)
- 最大の違い(過去を切り捨てない): SMAの「5」は過去5本分のデータだけで計算をスパッと打ち切りますが、EMAの基本式には「前日のEMA」が組み込まれているため、結果としてチャート上の過去すべてのデータが無限に内包されることになります。
- 事実: つまり「5日」という数字は、過去を切り捨てる期限ではなく、あくまで「直近の比重を1/3にする」という係数を決めるためだけに使われています。直近の事実を圧倒的に強く評価しつつ、大昔の価格の記憶も微小な比重で残り続けるため、トレンドの初動を早く、かつ滑らかに捉えることができます。
グランビルの法則:移動平均線と価格の「位置関係」
移動平均線を実戦で使う上で、世界的な基本原則とされているのが「グランビルの法則(Granville’s Rules)」です。
米国の金融アナリスト、ジョセフ・E・グランビルが考案したこの法則は、「移動平均線の傾き」と「価格の乖離(離れ具合)」という2つの事実から、4つの買い局面と4つの売り局面を論理的に分類したものです。
【買いの4法則】
- ① 買いPoint:移動平均線が下落後、横ばい、または上向きに転じたときに、価格が移動平均線を下から上に突き抜けた場合。
- ② 買いPoint:移動平均線が上向きの時に、一旦価格は下落し移動平均線を下回るも、再度上昇し移動平均線を下から上に突き抜けた場合。
- ③ 買いPoint:移動平均線が上向きの時に、一旦価格は移動平均線の手前まで下落するも、移動平均線を下抜けることなく再度価格が上昇する場合。
- ④ 短期リバウンド買い(逆張り):価格が移動平均線の下に大きく乖離した場合。下降トレンドに逆らう完全な逆張りとなるため、平均線に戻るまでの短期的な反発を狙います。
【売りの4法則】
- ⑤ 売りPoint:移動平均線が上昇後、横ばい、または下向きに転じたときに、価格が移動平均線を上から下に抜けた場合。
- ⑥ 売りPoint:移動平均線が下向きの時に、一旦価格が上昇して移動平均線を上回るも、再度下落し移動平均線を上から下に突き抜けた場合。
- ⑦ 売りPoint:移動平均線が下向きの時に、一旦価格が上昇するも移動平均線の手前で止まり再度下落した場合。
- ⑧ 短期反落売り(逆張り):価格が移動平均線の上に大きく乖離した場合。上昇トレンドに逆らう完全な逆張りとなるため、平均線に戻るまでの短期的な下落を狙います。
おわりに:移動平均線は「過去の軌跡」に過ぎない
移動平均線は決して「この場所に来たら反転する魔法の線」ではありません。移動平均線はどこまでいっても「過去の価格の平均値を遅れて描画しているだけの線」です。
ダウ理論のトレンド転換、SMCのオーダーブロック、あるいはフィボナッチの反発ポイント等、これまで学んだ「チャートの構造(事実)」と、この移動平均線の「傾きと位置関係」が合致した時、初めて精度の高いエントリーの根拠となります。
次回、第13話では、この移動平均線をベースに「価格のボラティリティ(変動幅の限界)」を統計学的に視覚化したインジケーター、「ボリンジャーバンド」について解説します。お楽しみに!
