第11話:幾何学が導く反転ポイント「ハーモニックパターン」

「エリオット波動」や、「フィボナッチ・リトレースメント」を解説してきました。

第11話では、これらの幾何学的なアプローチをさらに組み合わせ、チャート上に現れる特定の「M」や「W」の形から反転ポイントを予測しようとする「ハーモニックパターン(Harmonic Patterns)」について紹介します。

フィボナッチの「重なり」を見る幾何学

ハーモニックパターンとは、1930年代にH.M.ガートレーが提唱し、後にスコット・カーニーらがフィボナッチ比率を組み合わせて体系化したテクニカル分析の一つです。

チャート上に現れる「X・A・B・C・D」の5つの点で構成される波形が、特定のフィボナッチ比率(61.8%や78.6%など)に合致した時、その最後の「D点」で相場が反転しやすいとする理論です。

PRZ(反転ゾーン) X A B C D B = XAの 61.8%戻し D = XAの 78.6%戻し

基礎となる「ガートレー・パターン」の構造

ハーモニックパターンには、比率の違いによって「バット(コウモリ)」「バタフライ(蝶)」「クラブ(カニ)」など様々なバリエーションがありますが、最も基礎となるのが上図の「ガートレー・パターン」です。
買い(上昇反転)のパターンとして認識されるためには、以下のような条件が定義されています。

  1. X から A へ上昇する(最初の波)。
  2. A から B へ下落する。
    この時、B点は「XAの波」に対して61.8%(黄金比)戻した位置であることが理想とされます。
  3. B から C へ再び上昇する。
    C点は、A点(最高値)を超えずに反落する必要があります。
  4. C から D へ下落する。
    ここがパターンの完成地点です。D点が「XAの波」に対して78.6%戻した位置に到達した時、ガートレー・パターンが成立したとみなされます。

単なる「M」や「W」の形ではなく、各頂点がフィボナッチの比率で連携した時にパターンとして機能するという考え方です。


なぜ「D点」が意識されるのか?(PRZの正体)

ハーモニックパターンの最終到達点であるD点のことを、「PRZ(Potential Reversal Zone = 潜在的な反転ゾーン)」と呼びます。
ここで価格が反発しやすいとされる理由は、複数の異なる分析アプローチがこの「D点」で重なる(コンフルエンスする)からだと言われています。

  • フィボナッチの集中(ゾーンの形成): 「BCの127%〜161.8%拡張」というのはピンポイントの価格ではなく「幅を持った帯(ゾーン)」です。この幅広いゾーンの中に、親波である「XAの78.6%戻し」というラインが収まる多重構造になります。複数のフィボナッチ数値が密集するゾーンを形成するため、反発の根拠として意識されやすくなります。
  • アルゴリズムの標的: 現代の機関投資家が使う自動売買プログラム(アルゴリズム)の中には、こうした幾何学的な数値を計算して逆張りの注文を出すものがあると言われており、特定の価格帯に注文が集中する要因になります。
  • SMC(オーダーブロック)との融合: X点(起点の底値)からA点への上昇を作る際、大口が仕込んだ「オーダーブロック(OB)」の上端付近が、往々にしてこの「D点(PRZのゾーン内)」と重なります。
    結果として、大口の「建値決済(買い戻し)」と、パターントレーダーの「買い」が同じ価格帯で起こりやすくなるという解釈です。

おわりに:一つの視点として知っておく

ハーモニックパターンは、条件(比率)が厳密に設定されているため、綺麗な形でチャート上に現れることはそれほど多くありません。また、これだけで相場に勝てるような絶対的な魔法の手法でもありません。

しかし、「ダウ理論の波」「SMCの大口の罠」「エリオットの周期」「フィボナッチの数値」といった複数の視点が、幾何学的な形としてチャート上で重なった時、世界中の多くの市場参加者やアルゴリズムがそのポイントをどう見ているのか。それを知っておくことは、チャートを客観的に俯瞰する上で一つの引き出しになるはずです。

次回からは新章「トレンド系指標編」に入ります。これまでの波の構造や幾何学的な分析を視覚的に補助するツールとして、第12話では「価格の平均化とグランビルの法則『移動平均線(SMA・EMA)』」について解説していきます。