第10話:時間と価格のオカルトか真理か「ギャン理論」
相場分析において、多くのトレーダーは「価格(縦軸)」ばかりに気を取られがちです。しかし、チャートは価格(縦軸)と時間(横軸)の2つの次元で構成されています。
第10話では、この「時間」の概念を幾何学的にチャートへ組み込み、「価格と時間は等価である」と説いた伝説の相場師、ウィリアム・デルバート・ギャンの「ギャン理論(Gann Theory)」について解説します。占星術や古代数学を用いたことで「オカルト」と呼ばれることもありますが、その本質は極めて厳密な「数学」と「資金管理」の集大成です。
1. ギャン・ファン:時間と価格の「1×1」ライン
ギャン理論の根底にあるのは、「相場は『価格の変動幅』と『経過した時間』が完全に調和したときに、大きなトレンドの転換を迎える」という事実です。
この時間と価格のバランスをチャート上に視覚化するツールが「ギャン・ファン」です。
中でも最も重要なのが「1×1(ワン・バイ・ワン)ライン」です。これは「1単位の時間」に対して「1単位の価格」が動く、完璧なバランスを保った45度の斜線です。
- 1×1ラインより上にある場合: 相場は強気(上昇トレンド)です。価格が押してきた際、この45度のラインは極めて強力なサポート(支持線)として機能します。
- 1×1ラインを下抜けた場合: トレンドの「バランス」が崩れた決定的な証拠となります。ギャン理論では、ここが強気から弱気への転換点とみなされ、次のサポートである1×2ラインまで価格が落ちる可能性が高いと判断します。
2. スクエア・オブ・ナイン:魔法陣ではなく「電卓」
ギャン理論の中で最も有名で、かつオカルト扱いされやすいのがこの「スクエア・オブ・ナイン(9の四角形)」です。
図は1〜25までしかありませんが、本来はこの外側に「26、27、28…」と無限にマス目を書き足して巨大な螺旋を作ります。ギャンは、チャート上の重要な底値(起点)をこの巨大な表から見つけ出し、そこから十字(縦横)や斜めのライン上に並ぶ価格が、強力な反発ポイントになると定義しました。
表の裏に隠された「正しい計算式」
なぜ十字や斜めの数字が意識されるのか?実はこの表、電卓がなかった1920年代に「平方根(ルート)の計算を一瞬でやるためにギャンが作った早見表(カンペ)」に過ぎません。
ギャンが発見した真の法則は以下の計算式です。90度(表の1/4周)進むごとに、係数が「0.5」ずつ増えていきます。
【 価格のルート(√) に、角度の係数を足して(引いて)、2乗する 】
- 90度動かす(1/4周)= 0.5 を足す(下落時は引く)
- 180度動かす(半周)= 1.0 を足す
- 270度動かす(3/4周)= 1.5 を足す
- 360度動かす(1周)= 2.0 を足す
【実践例】株価が「3300円」で大底を打った場合
巨大なマス目表を手書きする必要はありません。現代の私たちは、この計算式をそのまま使って未来の抵抗線(ターゲット)を論理的に算出します。ある株が3300円で大底を打ち、上昇トレンドに入ったとします。
- まず、起点となる3300のルート(√3300)を電卓で出します。
👉 約 57.44 です。 - 90度(1/4周)の抵抗線を計算します。
57.44 + 0.5 = 57.94
57.94 × 57.94 = 約 3357円 - 180度(半周)の抵抗線を計算します。
57.44 + 1.0 = 58.44
58.44 × 58.44 = 約 3415円 - 270度(3/4周)の抵抗線を計算します。
57.44 + 1.5 = 58.94
58.94 × 58.94 = 約 3474円 - 360度(1周)の巨大な抵抗線を計算します。
57.44 + 2.0 = 59.44
59.44 × 59.44 = 約 3533円
(※3300円から始まった上昇の、ひとつの巨大なゴール地点として機能します)
このように、スクエア・オブ・ナインは魔法陣ではなく、「価格が平方根の法則に従って振動する」という相場の物理的な特性を利用した、極めて数学的な予測ツールなのです。
3. ギャンの「価値ある28のルール」
ギャンが伝説の相場師と呼ばれた最大の理由は、幾何学的な予測だけでなく、破産を避けるための徹底した「資金管理(リスクコントロール)」を確立していたことにあります。
彼が書き残した、相場で生き残るための「28のルール」をすべて記載します。これは現代のトレードにおいても絶対に破ってはならない鉄の掟です。
- 資金を10等分し、1回のトレードのリスクを総資金の10%以内に抑えること。
- エントリーと同時に、必ずストップロス(損切り注文)を置くこと。
- 過剰な売買(オーバートレード)をしないこと。資金配分のルールに違反するため。
- 含み益が出たらストップロスを建値(エントリー価格)に移動させ、利益を損失に変えないこと。
- トレンドに逆らわないこと。チャートを見てトレンドに確信が持てない時は取引しない。
- 迷った時は決済して市場から離れる。迷いがある時はエントリーしない。
- 活発に動いている銘柄だけを取引し、動きの鈍い銘柄には手を出さないこと。
- リスクを均等に分散すること。可能なら4〜5銘柄に分け、1つの銘柄に全資金を集中させない。
- 指値で注文を制限しないこと。成り行きで取引すること。
- 正当な理由なくポジションを決済しないこと。利益を伸ばすためにストップロスを引き上げて対応する。
- トレードで連続して利益が出たら、一部を非常時用の予備口座にプール(貯金)すること。
- 配当金目当てで株を買わないこと。
- ナンピン(損失の平均化)は絶対にしないこと。トレーダーが犯す最悪の過ちである。
- 焦ってエントリーしないこと。また、待ちきれずにポジションを決済しないこと。
- 小さな利益で満足し、大きな損失を被るようなことは避けること。
- 一度設定したストップロス(損切り注文)は、絶対にキャンセルしないこと。
- 頻繁に市場に出入りするのを避けること。
- 買い(ロング)と同じように、売り(ショート)も喜んで行うこと。トレンドに従うことが目的である。
- 価格が低いという理由だけで買わず、価格が高いという理由だけで売らないこと。
- ピラミッディング(買い乗せ・売り乗せ)は、抵抗線を突破したなど、正しいタイミングでのみ行うこと。
- 買い乗せをする場合は発行済み株式数の少ない銘柄を選び、売り乗せをする場合は多い銘柄を選ぶこと。
- ヘッジ(両建て)はしないこと。買いポジションが下がったからといって空売りでカバーせず、素直に損切りして次の機会を待つこと。
- 明確な理由がない限り、ポジションを変更(ドテン等)しないこと。トレンドの転換シグナルを確認してから行動する。
- 長期間の成功や、大きく儲かった後は取引量を増やさないこと。
- 相場の天井や大底を推測しないこと。市場が天井や底を打ったことを証明するまで待つこと。
- 自分より知識がある(優れた)と確信できない限り、他人のアドバイスには従わないこと。
- 最初の損失が出た後は取引量を減らすこと。絶対に増やしてはならない。
- 間違ってエントリーし、さらに間違って決済する「二重の過ち」を避けること。また、正しくエントリーしたのに決済を間違える過ちも避けること。
おわりに:オカルトではなく「2次元の測量と自己規律」
ギャン理論は、決して未来を予知する魔法の杖ではありません。
価格(縦軸)だけでなく時間(横軸)という要素を組み合わせてチャートを「2次元のマップとして測量する技術」であり、そこに鉄の掟である「28の資金管理ルール」を掛け合わせた、極めて現実的で泥臭い生存戦略です。
ダウ理論、SMC、エリオット波動、フィボナッチ、そしてギャン理論。ここまで解説してきた理論に共通しているのは、すべて「事実としての値動きと時間」を論理的に切り取り、大衆の逆を行くための道具だということです。
次回、第11話では、これらのチャート構造分析をさらに視覚的に補助するツール、「インジケーター(RSI・MACD)の真実とダイバージェンス」について解説します。お楽しみに!
