第10話:【後工程・装置編】チップレット時代を牽引する切断・封止・テスト装置(ディスコ、TOWA、アドバンテスト)
第9話では、AI半導体の進化を支える「ICパッケージ基板」の世界を見ました。
第10話では、その基板にチップを載せる前後で行われる「切る・削る」「樹脂で包む(封止)」「テストする」という後工程の製造装置に迫ります。
現在、生成AI向けのGPUや、それに付随する広帯域メモリ「HBM(High Bandwidth Memory)」の製造において、これら後工程装置の需要が爆発的に伸びています。複数のチップを組み合わせる「チップレット技術」の台頭により、かつては地味な裏方だった後工程が、今や高付加価値を生み出す最先端の主戦場へと変貌を遂げています。
1. ウェハーを「切る・削る」絶対王者:ディスコ
前工程で回路が描き込まれた丸いウェハーを、極限まで薄く削り(グラインディング)、四角いチップごとに1つずつ切り離す(ダイシング)工程です。
【市場シェア】
- ディスコ(6146):ダイシングソー(切断)世界シェア約70〜80%
ウェハーを切り分ける切断装置において、世界のトップ企業です。 - グラインダ(研削装置):世界シェア約70〜80%
チップを極限まで薄く削る装置でも圧倒的なトップシェアを握ります。競合には東京精密(7729)などが存在しますが、ハイエンド領域はディスコの牙城です。
【市場が寡占状態にある理由(高い参入障壁)】
AI向けのHBM(広帯域メモリ)は、極薄に削ったメモリチップを12層〜16層と垂直に積み重ねて作られます。髪の毛より薄く削り、ナノレベルの精度でヒビ(チッピング)を一切入れずに切り離す「切る・削る・磨く」の高度な物理的ノウハウは、他社が容易に模倣できません。この工程でチップが割れれば、前工程でかけた数百万円の価値がすべて紙屑になるため、半導体メーカーは信頼性の高いディスコ製以外の選択肢を取れません。
【ビジネスモデルと今後の動向】
- 消耗品(リカーリング)ビジネス:装置本体の販売だけでなく、ウェハーを切るための「ブレード(刃)」や削るための「砥石」という消耗品の売上が約3割を占めます。工場が稼働する限り高い利益率で継続収益を生む最強のビジネスモデルです。
- 今後の動向:チップレット化やHBMの多層化が進むほど、「削る面積」と「切る回数」が増加するため、AI半導体の進化がダイレクトに業績を押し上げる構造です。
2. HBMの多層積層を支える「樹脂封止(モールディング)」
切り出され、基板に接続された脆いチップを、熱や衝撃、湿気から守るために黒い樹脂でパッケージング(封止)する工程です。
【市場シェア】
- TOWA(6315):半導体モールディング装置 世界シェア約60%
樹脂封止装置の全体市場でトップシェアを誇ります。特に、AI向けのHBMやチップレット等の先端パッケージングで必須となる「コンプレッション(圧縮)成形装置」においては、圧倒的なシェア(事実上の市場独占に近い状態)を築いています。 - アピコヤマ(非上場)など:
従来型のトランスファ成形装置等で競合しますが、最先端のハイエンド領域はTOWAが牽引しています。
【市場が寡占状態にある理由(高い参入障壁)】
従来の液状樹脂を流し込む方式(トランスファ方式)では、HBMのような隙間の狭い多層積層チップの場合、樹脂の流れる圧力で極細の金線が倒れたり、内部に気泡(ボイド)が入ったりする致命的な問題がありました。TOWAは、あらかじめ樹脂を満たした空間にチップを浸して圧縮する「コンプレッション成形」という特許技術を確立しており、先端パッケージングにおいて他社が技術的に入り込めない強固な堀を持っています。
【今後の動向と成長予測】
- 需要の急拡大:SKハイニックスやサムスン電子など、HBMを製造するトップメーカーの増産投資に直接連動します。AI半導体のパッケージが大型化・複雑化するにつれて、高単価なコンプレッション装置の需要が急速に拡大しています。
3. 最後の門番「テスト・測定装置(テスタ)」の複占
製造された半導体が、設計通りに動くか、電気的特性に異常がないかを最終確認する検査工程です。ここで不良品を弾かなければ、数十万円する最終製品(スマホやサーバー)全体が不良品となってしまいます。
【市場シェア】
- アドバンテスト(6832):SoCテスタ/メモリテスタで世界シェア約50%超
半導体テスト装置の世界市場は、日本のアドバンテストと米国のテラダイン(Teradyne)の2社による完全な複占状態(2社でシェア90%以上)です。特にアドバンテストは、HBM向けの超高速メモリテスタや、AI向けGPU(SoC)のテスト領域で極めて高いシェアを持っています。 - 東京精密(7729):ウェハプローバ(測定機)世界トップクラス
テスタと組み合わせて、ウェハー上の個々のチップに探針(プローブ)を当てて電気検査を行う装置において、東京エレクトロン等と並び世界トップクラスのシェアを持ちます。
【市場が寡占状態にある理由(高い参入障壁)】
テスト装置は「検査対象となる最先端半導体よりも、さらに高速で精密な処理能力」を持たなければなりません。NVIDIAやAMDといったトップメーカーが新世代のチップを開発する数年前から、機密情報を共有して共同でテスタを開発する必要があるため、新規参入メーカーがテストのアルゴリズムやノウハウに追いつくことは不可能です。
【市場規模と今後の動向(テスト時間の長期化)】
- 市場規模:半導体テスト装置市場全体で約80億〜100億米ドル(約1.2兆〜1.5兆円)規模です。
- 投資家が知るべき事実:チップレット技術では、パッケージング「前」に良品チップを選別するテスト(KGD:Known Good Die)と、パッケージング「後」のテストの両方が必須となります。チップの複雑化により「1個あたりのテスト時間が劇的に長くなっている」ため、処理量を維持するにはテスタの「台数」を増やすしかなく、これがアドバンテストの爆発的な業績拡大の裏付けとなっています。
続く第11話では、このテスト工程において絶対に欠かせない、そして工場が稼働する限り利益を生み出し続ける「プローブカード」と「テストソケット」という、超高収益な消耗品ビジネス(日本マイクロニクス、日本電子材料、山一電機など)の深淵に迫ります。
