第5話:【後退期・不況期】のディフェンシブセクター(生活必需品・ヘルスケア・公益事業)

経済の過熱を抑えるための利上げ(高金利)が実体経済にブレーキをかけ始め、景気が減速していく「後退期」から、どん底の「不況期」において、資金がどのように移動するのかを解説します。

1. 後退期・不況期の経済環境とは

好況期に行われた利上げの蓄積は、やがて企業の設備投資や個人の消費(住宅ローンや自動車ローンなど)を強く圧迫し始めます。これにより経済全体の成長が止まり、縮小へと向かいます。

【後退期・不況期の基本的なパラメーター】

  • 金利: 高止まりから、景気悪化を受けて中央銀行が「利下げ」へと転じる
  • 企業業績: モノが売れなくなり、多くの企業で売上と利益が減少(業績悪化)する
  • 市場心理: 先行きへの強い不安や警戒感から、リスクの高い資産(株式)から資金を引き揚げようとする動きが強まる

このフェーズでは、景気に左右されやすい一般消費財や、設備投資に依存する資本財・素材セクターの業績が急激に悪化します。そこで投資家は、経済がどんなに冷え込んでも「売上が落ちない(需要が消えない)業種」へと資金を避難させます。

2. 資金の避難先となる「ディフェンシブセクター」

不況下においても業績が安定している業種は「ディフェンシブ(防御的)セクター」と呼ばれます。これら3つのセクターに共通する構造は、経済学における「需要の価格弾力性が低い(景気や所得が減っても、消費者が買う量を減らせない)」という点です。

① 生活必需品(食品・飲料・日用品など)

どんなに不景気になり給料が減ったとしても、人は食事を摂り、歯を磨き、トイレットペーパーを使います。
自動車や旅行などの「贅沢品(一般消費財)」への支出は真っ先に削られますが、スーパーやドラッグストアに並ぶ「生活必需品」への支出は極限まで削られることがありません。そのため、不況下でも売上と利益が計算しやすく、株価の下落が相対的にマイルドに抑えられる構造になっています。

② ヘルスケア(製薬・医療機器など)

景気が悪いからといって、病気にならないわけではありません。また、持病の薬を飲むのをやめたり、必要な手術を延期したりする人は少数です。
医療や医薬品に対する需要は、景気動向よりも「人口動態(高齢化など)」に依存するため、経済の波に左右されずに安定した収益を上げ続けることができます。

③ 公益事業(電力・ガス・水道など)

家庭や企業を維持するためのインフラである電気、ガス、水道は、社会生活の根底を支えており、生活必需品以上に需要が削られにくい分野です。
さらに、これらの企業は利益の多くを「配当金」として株主に還元する傾向があります。不況期に入り中央銀行が利下げ(金利低下)を行うと、相対的に配当利回りの高い公益事業の株式が「安定した利回り商品」として債券の代わりに買われやすくなる、という金融的なメカニズムも働きます。


3. 次回のテーマ:セクター投資の実践

ここまでの解説で、「回復・好況・後退・不況」という景気循環の波と、それぞれの局面で恩恵を受けるセクターの構造が一周しました。不況期の底で中央銀行が十分に利下げを行うと、再び経済は「回復期」へと向かい、ハイテクや一般消費財が買われ始めるサイクルに戻ります。

続く第6話(最終回)では、この理論を実際の投資行動に落とし込む際、投資信託ではなく「米国ETF」が使われる理由と、その具体的な商品構造について解説します。