第9話:リバース・アイアンコンドルとロング・ストラドルとは?相場の「大暴れ(ブレイクアウト)」を狙う買い戦略

前回(第8話)は、「相場が動かないこと」を利益に変える胴元のレンジ戦略(アイアンコンドル)を解説しました。
しかし、相場には日銀金融政策決定会合、米雇用統計、あるいは大統領選挙など、上に行くか下に行くかは分からないが「とにかく暴れる(ボラティリティが爆発する)」可能性が高い特異日が存在します。

方向が分からない以上、単なるコール買いやプット買いは「丁半博打(ギャンブル)」になってしまいます。
では、プロのオプショントレーダーはこのような大イベントを指をくわえて見ているだけなのでしょうか?

結論から言えば、「上と下、両方の保険(買い)を同時に掛ける」という力技が存在します。それが、相場がどちらに暴走しても利益を生み出す大荒れ相場専用の買い戦略、「ロング・ストラドル」「ロング・ストラングル」です。

【実例計算】リバース・アイアンコンドルの組み方と損益構造

現在の日経平均が60,000円。明日の経済イベントで相場が大きく荒れると確信したとします。
コストとIVクラッシュを防ぐため、内側を買って外側を売る『リバース・アイアンコンドル』を組みます。

  • 【上側のデビット】 60,500円コール買(支払150円) / 61,000円コール売(受取50円) = 差引-100円の支払い
  • 【下側のデビット】 59,500円プット買(支払150円) / 59,000円プット売(受取50円) = 差引-100円の支払い

合計の支払プレミアム(最大損失): 100円 + 100円 = 200円(実額:-20万円)

※単なるロング・ストラングル(内側の買いのみ)なら30万円のコストがかかるところを、外側を売って10万円回収したことで、初期投資を20万円に抑え込みました。

59,000円 59,500円 60,000円 60,500円 61,000円 (プット売) (プット買) (現在値) (コール買) (コール売) 下限BEP 上限BEP (日経平均) ①暴落の最大利益 +30万円 ②下落の変動 +30万 〜 -20万 ③最大損失 -20万円 ④上昇の変動 -20万 〜 +30万 ⑤暴騰の最大利益 +30万円

ベースとなる「ロング・ストラングル(およびストラドル)」

上の図解の内側にある【59,500円のプット買】と【60,500円のコール買】の2つだけを組む陣形を、「ロング・ストラングル」と呼びます。(※もし現在値の60,000円ピッタリで同じストライクを両方買った場合は「ロング・ストラドル」と呼びます)。

相場が一定のライン(損益分岐点)を超えれば、図の①や⑤の青いゾーンが上に向かって利益無限大(青天井)に拡大していく夢のような陣形です。
しかし、2つの保険を全額自腹で買うため初期費用(最大リスク)が莫大になり、さらに後述する「IVクラッシュ」という致命的な罠にハマりやすくなります。

プロの解決策「リバース・アイアンコンドル」

そこで、ロング・ストラングルの外側に、さらに【59,000円のプット売】と【61,000円のコール売】という「値引き(資金回収)」を配置します。これが、現在図解に表示されている「リバース・アイアンコンドル」の完成形です。

利益が青天井ではなくなる(最大利益が+30万円に限定される)という代償を払いますが、外側を売った受取金のおかげで初期費用が劇的に安くなり、損益分岐点(BEP)が現在値に近づくため、勝率が大幅に上がるという実戦向けの陣形になります。

SQ日の損益シミュレーション(5つのゾーン解説)

完成したリバース・アイアンコンドル(W字型)の各ゾーンにおいて、SQ日を迎えた場合の損益を見ていきましょう。

③ 最大損失ゾーン(日経平均が59,500円〜60,500円の間で着地)

相場が荒れることを期待したのに、結局いつも通りの「箱の中(レンジ)」で終わってしまった敗北パターンです。
買ったコールもプットも両方とも権利行使価格に届かず消滅します。最初に支払った「-20万円」が全額没収(最大損失)となります。

②・④ 損益変動ゾーン(少し動いたがコスト負け)

予想通り動き出し、片方の権利は発生したものの、「初期費用の20万円」を取り返すほどには動かなかった状態です。
この戦略の損益分岐点(BEP)は、「買ったストライク ± 両方合わせた支払プレミアム」で計算します。
【下限BEP: 59,500円 - 200円 = 59,300円】
【上限BEP: 60,500円 + 200円 = 60,700円】
相場がこのBEPを超えるまでは、動けば動くほど損失は減っていきますが、まだマイナス圏です。

①・⑤ 最大利益ゾーン(損益分岐点を突破した大暴走)

イベント等で相場が大きく動き、BEP(59,300円以下、または60,700円以上)を完全に突き抜けた「勝利」のパターンです。
しかし、外側を「売って」いるため、単体のストラングルのように利益が青天井になるわけではありません。59,000円以下、あるいは61,000円以上にどれだけ突き抜けても、獲得できる最大利益は「+30万円」で固定されます。

素人が自爆する「IVクラッシュ」の致命的な罠

「利益が青天井になるなら、単体のストラドルやストラングルのままでいいじゃないか!」
オプション初心者は、大イベントの前に必ずこの両建て買いを組みたがります。しかし、実戦において素人の両建て買いは、高い確率で「大火傷(大赤字)」で終わります。

理由は、イベント通過後に起きる「IV(インプライド・ボラティリティ)のクラッシュ」を、コールとプットの両方で食らうからです。

【恐怖の具体例】日銀会合を通過し、日経平均が+800円動いた場合
  • 大イベントの前日は、誰もが「明日大暴落するかも!」と怯えているため、コールもプットも「ボッタクリ価格(高IV状態)」になっています。
  • いざ会合を通過し、日経平均が+800円動いたとします。通常ならコール買いが利益になるはずです。
  • しかし、イベントを無事に通過したことで市場に「安心感」が広がり、高騰していたIVが一瞬で通常モードに暴落(クラッシュ)します。
  • 結果、「株価は800円も上がったのに、IV低下のマイナスが大きすぎて、買ったコールの価格はあまり変わらない。もちろん逆側のプットは大暴落」となり、両方合わせて大赤字を叩き出します。

単なるストラングル(買いのみ)では、このボッタクリ価格というハンデを跳ね返すほどの歴史的な変動が起きない限り勝てません。だからこそプロは、リバース・アイアンコンドルのように「外側を売ってIVクラッシュのダメージを相殺する」という工夫をしているのです。

まとめと次回予告

  • ロング・ストラドル/ストラングル: コールとプットを両方買い、方向を問わず「大荒れ」で稼ぐ戦略。利益は青天井だが、IVクラッシュに非常に弱い。
  • リバース・アイアンコンドル: ストラングルの外側に「売り」を被せ、コストとIVクラッシュを防ぐ完成形。

「動かないことを祈る(アイアンコンドル)」か、「どっちでもいいから暴れてくれと祈る(リバース・アイアンコンドル)か」。ここまでの戦略は、どちらも「相場の方向(上下)」を放棄した戦い方でした。

しかし、次回の第2章最終回【第10話】では、ついに「相場の方向」を明確に狙い撃ちにするプロの必殺技、「リスク・リバーサル」を解説します。そして最後に、これまで学んだ全戦略が1枚のマップに繋がる「オプション戦略マトリックス」を大公開します!お楽しみに!