第3話:オプションのプレミアム(価格)はどう決まる?ATM・ITM・OTMの意味と基礎知識

第2話では、オプション取引における「買い手(権利を行使する側)」と「売り手(胴元として義務を負う側)」の損益構造の違いを解説しました。
そこで頻繁に登場したのが、権利を売買するための代金である「プレミアム」です。

日経平均の先物や現物株と同様に、オプションのプレミアム(価格)も最終的には板(オーダーブック)上の「需給(買いと売りのバランス)」によって決まります。
しかし、市場参加者が「いくらで買い注文(売り注文)を出すか」という基準は、単なる勘や勢いではありません。プレミアムの根底には、明確な「2つの価値」が組み込まれており、それを基準に激しい需給が形成されているのです。
この「プレミアムの中身」を知らなければ、機関投資家の手口を分析し、自ら有利なポジションを構築することは不可能です。
本記事では、プレミアムを構成する2つの要素と、オプション取引の共通言語である「ITM・ATM・OTM」の意味について、具体的な数値を用いてわかりやすく解説します。

オプションのプレミアム(価格)を構成する2つの要素

市場参加者が「いくらで買い注文(売り注文)を出すか」という基準は、明確な計算式(ブラック・ショールズ・モデルなど)に基づいて論理的に算出されています。
細かい計算式を暗記する必要は全くありませんが、プレミアムが以下の「2つの価値」の合計でできていることだけは絶対に覚えてください。

  • プレミアム = 本質的価値 + 時間的価値
  • 本質的価値: 「今すぐその権利を行使したらいくら儲かるか」という、現時点での絶対的な価値。
  • 時間的価値: 「SQ(満期日)までに、相場が動いて利益が出るかもしれない」という、将来への期待値(保険料)。

この2つの価値がどの割合で含まれているかを示す状態(ステータス)が、これから解説する「ITM・ATM・OTM」です。

ITM・ATM・OTMとは?権利行使価格と日経平均の現在地

オプションの各権利行使価格は、日経平均の「現在値」との位置関係によって、ITM(イン・ザ・マネー)、ATM(アット・ザ・マネー)、OTM(アウト・オブ・ザ・マネー)の3つに分類されます。
現在の日経平均が60,000円だと仮定して、それぞれの状態を見ていきましょう。

1. ITM(イン・ザ・マネー:本質的価値がある状態)

「すでに利益が出る状態(的の中)」にあるオプションのことです。

  • コールのITM(買う権利): 権利行使価格が現在値より低い(例:58,000円のコール)。仮にSQ日も同じ価格だとしたら、60,000円のものを58,000円で買える状態になっているため、すでに2,000円の「本質的価値」があります。
  • プットのITM(売る権利): 権利行使価格が現在値より高い(例:62,000円のプット)。仮にSQ日も同じ価格だとしたら、60,000円のものを62,000円で売れる状態になっているため、すでに2,000円の「本質的価値」があります。

ITMのオプションは、すでに実体のある価値(本質的価値)を含んでいるため、プレミアムが非常に高額になるのが特徴です。

2. OTM(アウト・オブ・ザ・マネー:本質的価値がゼロの状態)

「現状では権利を行使しても損をする状態(的の外)」にあるオプションのことです。

  • コールのOTM(買う権利): 権利行使価格が現在値より高い(例:62,000円のコール)。仮にSQ日も同じ価格だとしたら、市場で60,000円で買えるものをわざわざ62,000円で高く買うバカバカしい権利になってしまうため、本質的価値はゼロです。
  • プットのOTM(売る権利): 権利行使価格が現在値より低い(例:58,000円のプット)。仮にSQ日も同じ価格だとしたら、市場で60,000円で売れるものをわざわざ58,000円で安く売るバカバカしい権利になってしまうため、本質的価値はゼロです。

つまり、OTMのプレミアムは「100%すべてが時間的価値(期待値)」だけで構成されています。

3. ATM(アット・ザ・マネー:現在値と一致している状態)

「日経平均の現在値と、権利行使価格がピタリと一致している状態」のことです。

  • コールのATM(買う権利): 権利行使価格が現在値と同じ(例:60,000円のコール)。仮にSQ日も同じ価格だとしたら、市場で60,000円で買えるものを60,000円で買うことになるため、利益も損失も出ず、本質的価値はゼロです。
  • プットのATM(売る権利): 権利行使価格が現在値と同じ(例:60,000円のプット)。仮にSQ日も同じ価格だとしたら、市場で60,000円で売れるものを60,000円で売ることになるため、利益も損失も出ず、本質的価値はゼロです。

ATMは本質的価値がゼロですが、全権利行使価格の中で時間的価値(将来への期待値)が最も高くなります。

ここで、「OTMよりATMの方が期待値が高いのはわかるけど、すでに実体のあるITMよりもATMの方が『時間的価値』が高くなるのはなぜ?」と疑問に思うかもしれません。相場が+1,000円動いたとき、ITMもATMも同じように本質的価値が1,000円増える(利益の増え方は同じ)はずです。

その答えは、「相場が逆行したときのリスク(ダメージ)が全く違うから」です。

  • 深いITMの場合: 相場が-1,000円逆行すると、せっかく持っていた本質的価値がそのまま1,000円分減ってしまいます(実体を削り取られる痛みを伴う)。
  • ATMの場合: 相場が-1,000円逆行しても、本質的価値は0のままでマイナスにはなりません。(損失は最初に払ったプレミアム代だけで済みます)。

つまりATMは、「予想が当たればITMと同じように青天井で利益が増えるのに、外れて相場が逆行しても本質的価値のマイナスダメージは絶対に受けない」という、買い手にとって最も都合の良いスタートラインなのです。残存日数が長く残っているほど、このオプションの非対称性(利益無限大・損失限定)の恩恵を1番受けるのがATMです。

そのため、権利行使価格がATMに近づくにつれて時間的価値は大きくなり、買い手にとって一番美味しいポジションであるATMで最大となります。(※プレミアムの総額自体は、本質的価値を含むITMの方が高くなります)。

売買が最も活発に行われ、機関投資家同士の攻防の中心(主戦場)になるのがこのATM付近です。

まとめ:プレミアムの構造を理解する

  • プレミアム = 本質的価値 + 時間的価値
  • ITM(イン・ザ・マネー): すでに利益が出る状態。実質的な価値(本質的価値)を持つ。
  • ATM(アット・ザ・マネー): 現在値と一致。最も時間的価値が高く、相場の主戦場になる。
  • OTM(アウト・オブ・ザ・マネー): 現状は価値ゼロ。プレミアムは時間的価値(期待値)のみで構成される。機関投資家が好んで「売る」価格帯。

日経平均が動くたびに、すべての権利行使価格はITMになったりOTMになったりと、常にステータスを変えながらプレミアムを変動させています。

次回【第4話】では、相場があまり動かなくても買い手のプレミアム(評価額)を日々削り落とし、そのまま売り手(胴元)の利益へと変えてしまう見えない力、「セータ(タイムディケイ)」の残酷な仕組みを暴きます。なぜ海外機関投資家が圧倒的に「売り」を好むのか、その最大の理由がここで明らかになります。