第8話:アイアンコンドルとショート・ストラングルとは?相場が「動かない」ことで稼ぐレンジ戦略

第6話では、強固な壁を背にして防衛する盾の陣形「クレジットスプレッド」を、第7話では壁が崩壊した瞬間の暴走を狙撃する槍の陣形「デビットスプレッド」を解説しました。

実は、この「クレジット(盾)」と「デビット(槍)」を、現在値の【上と下】にどう配置するかによって、オプション戦略は以下の4つの陣形(マトリックス)に分類されます。

スプレッドの組み合わせで生まれる4つの陣形

  • ① 上(クレジット) + 下(クレジット) =【アイアンコンドル】
    上下に盾を配置。相場が「動かない(レンジ)」ことで利益を出す。
  • ② 上(デビット) + 下(デビット) =【リバース・アイアンコンドル】
    上下に槍を配置。上か下、どちらかに「大きく動く(大荒れ)」ことで利益を出す。
  • ③ 上(デビット) + 下(クレジット) =【強気のリスク・リバーサル】
    下に盾、上に槍を配置。「下値は堅く、上方向に突き抜ける」と予想する超強気陣形。
  • ④ 上(クレジット) + 下(デビット) =【弱気のリスク・リバーサル】
    上に盾、下に槍を配置。「上値は重く、下方向に暴落する」と予想する超弱気陣形。

③と④は「相場の方向(上下)」を当てる戦略であり、②は「大荒れ」を期待する戦略です。
しかし、実際の相場において、日経平均が常に一方向に強いトレンドを描いていたり、大暴れしているわけではありません。むしろ、「上値も重いが、下値も堅い」という膠着したレンジ相場(ボックス相場)になる期間の方が圧倒的に長いです。

本記事では、上記の4分類のうち、相場を「箱の中」に閉じ込めて利益を搾り取る最強のレンジ戦略、①の「アイアンコンドル戦略」、およびそのベースとなる「ショート・ストラングル」について解説します。

【実例計算】アイアンコンドルの組み方と損益構造

現在値(60,000円)を挟み込むように、以下の陣形を同時に組みます。

  • 【上側(蓋)】 61,000円コール売(受取100円) / 61,500円コール買(支払30円) = 差引+70円の受け取り
  • 【下側(皿)】 59,000円プット売(受取100円) / 58,500円プット買(支払30円) = 差引+70円の受け取り

合計の受取プレミアム(最大利益): 70円 + 70円 = 140円(実額+14万円)

片側が破られた時の最大損失: スプレッド幅(500円) - 受取プレミアム(140円) = 360円(実額-36万円)

58,500円 59,000円 60,000円 61,000円 61,500円 (プット買) (プット売) (現在値) (コール売) (コール買) 下限BEP 上限BEP (日経平均) ①下落の最大損失 -36万円 ②下落の変動 -36万 〜 +14万 ③最大利益ゾーン +14万円 ④上昇の変動 +14万 〜 -36万 ⑤上昇の最大損失 -36万円

ベースとなる「ショート・ストラングル(およびストラドル)」

上の図解の内側にある【59,000円のプット売】と【61,000円のコール売】の2つだけを組む陣形を、「ショート・ストラングル」と呼びます。(※もし現在値の60,000円ピッタリで同じストライクを両方売った場合は「ショート・ストラドル」と呼びます)。

相場が動かなければ利益になるのは同じですが、外側の保険(買い)がないため、図の①や⑤のゾーンに相場が突き抜けた場合、損失が赤い背景の下に向かって無限大に拡大し続けるという恐ろしい爆弾を抱えています。

保険を完備した「アイアンコンドル」

そこで、ショート・ストラングルの外側に、さらに【58,500円のプット買】と【61,500円のコール買】という保険(防波堤)を配置します。これが、現在図解に表示されている「アイアンコンドル」の完成形です。外側の買いのおかげで最大利益は減るものの損失が拡大し続けるという恐ろしい爆弾を手放せます。

最大の魔法:「利益は2倍」なのに「リスクはそのまま」

この陣形の最も恐ろしい強みは、上からも下からもプレミアム(保険料)を受け取れる点です。
相場が動かなければ、コール側とプット側の両方から、毎日「セータ(タイムディケイ)」によって時間的価値が削り落ちていきます。つまり、単一のスプレッドを組むよりも2倍のスピードで利益が積み上がっていくのです。

さらに数学的な魔法があります。相場は「上と下、両方に同時に突き抜ける」ことは物理的に不可能です。上に暴走すれば下のプットは安全に無傷で終わり、下に暴落すれば上のコールは無傷で終わります。
つまり、プレミアムは2倍もらえるのに、最大損失は片方のスプレッド分しか発生しないため、資金効率(リスクリワード)が劇的に向上するのです。

SQ日の損益シミュレーション(5つのゾーン解説)

完成したアイアンコンドルの図解の①〜⑤の各ゾーンにおいて、SQ日(満期)を迎えた場合の損益を見ていきましょう。

③ 最大利益ゾーン(日経平均が59,000円〜61,000円の間で着地)

最も確率の高い「安全地帯」に収まった場合の完全勝利パターンです。
この箱(レンジ)の中に収まれば、売ったオプションも買ったオプションもすべて権利行使されずに紙くずとなって消滅します。あなたは最初に受け取った「+14万円」をそのまま利益として総取りします。

②・④ 損益変動ゾーン(壁を少しだけ突破した場合)

壁を突破したものの、まだ受取プレミアム(14万円)のクッションがある状態です。
アイアンコンドルの損益分岐点(BEP)は、「売ったストライク ± 受取プレミアム」で計算します。
【下限BEP: 59,000円 - 140円 = 58,860円】
【上限BEP: 61,000円 + 140円 = 61,140円】
この上限・下限のBEPを超えない限り、相場がどちらに動いてもあなたのポジションはプラス(利益)で終わります。

①・⑤ 最大損失ゾーン(外側の保険すら突破する大暴走)

どちらか一方の壁が完全に破られ、大暴騰・大暴落が発生した「敗北」のケースです。
しかし、ショート・ストラングルとは違い「外側の買い(保険)」を入れている効果が発揮されます。相場がどれほど狂ったように暴走しようとも、最大損失はスプレッド幅から受取プレミアムを引いた「-36万円」に完全に固定(ロック)されます。口座が吹き飛んで一発退場するような事態には陥りません。

手口分析とアイアンコンドル

アイアンコンドルは、適当な価格帯に仕掛けても勝率を高く維持できません。勝率を高めるためには、次章(第3章)で解説する「海外機関投資家の防戦売買(先物ヘッジ)」を徹底的に利用する必要があります。

巨大資本同士の「にらみ合い」の間に陣取る

手口データを読み解き、上値と下値に「巨大な売り建玉の塊」がある週を狙います。

  • アムロが61,000円にコールの売り壁を築いている(上がってきたら先物売りで叩き落とす)
  • ゴールドマン・サックス(GS)が59,000円にプットの売り壁を築いている(下がってきたら先物買いで支える)

この「巨大な蓋と皿」が確認できた時、その壁の「少し外側」あるいは「同じ価格帯」に、自分のアイアンコンドルの売りポジションを重ねて配置します。

こうすることで、日経平均がどちらの壁に近づいたとしても、機関投資家が自らの損失を防ぐために巨額の資金を使って相場をレンジ内に押し戻してくれます。あなたはただ、彼らが築いた「安全地帯(箱の中)」のど真ん中で、時間が経過して両側のプレミアムがゼロになるのを待つだけで良いのです。

まとめ:まとめと次回予告

  • ショート・ストラングル: 上下を両方「売る」ことで動かない相場で稼ぐが、損失無限大の危険がある。
  • アイアンコンドル: ストラングルの外側に「買い(保険)」を配置し、最大損失を限定した完成形。
  • 資金効率の魔法: プレミアムは上下から2倍もらえるのに、最大損失は片方分に限定される。
  • 手口との融合: 機関投資家が先物で「防戦売買」を行う強固な壁(蓋と皿)を見つけポジションを配置する。

現物株トレーダーが「相場が方向感を出さず、利益が出せない」と嘆く膠着相場こそ、アイアンコンドルを組んだオプショントレーダーにとっては最大の稼ぎ時です。
相場が上がるか下がるかを当てるギャンブルから降り、機関投資家の壁に守られながら「時間の経過」を確実な利益に変えていけます。

今回は「相場が動かないこと」を利益に変えるレンジ戦略を解説しました。
しかし、相場には日銀金融政策決定会合や米雇用統計など、上に行くか下に行くかは分からないが「とにかく大暴れする(ボラティリティが爆発する)」確率が高い特異日が存在します。

次回【第9話】では、今回とは真逆のアプローチ。相場が上と下のどちらに暴走しても利益を生み出す「大荒れ相場」専用の買い戦略、「リバース・アイアンコンドル」の仕組みを解説します。お楽しみに!