第12話:オプション手口が日経平均の「壁」になる理由とは?レジスタンスとサポートの探し方
前回(第11話)は、相場の現在地を知るための「手口データ(JPX公表データ)」の種類と当サイトの分析ツールの見方を解説しました。
しかし、データを見ることができるようになっても、その数字の意味を理解できなければ実戦では役に立ちません。
第1章・第2章の戦略解説の中で、「オプションの売り手(機関投資家)は強固な壁を作って相場を防衛する」という話を何度かしてきました。
本記事ではこの知識と手口データをリンクさせ、実際の建玉データから日経平均の「レジスタンス(上値抵抗線)」と「サポート(下値支持線)」の候補をピンポイントで見つけ出す方法を解説します。
なぜ「建玉(OI)」が日経平均の壁として機能しやすいのか?
そもそも、特定の価格帯にオプションの建玉(ポジション)が集中すると、なぜそこが日経平均の壁として機能しやすいのでしょうか?
オプション取引は「ゼロサムゲーム」です。誰かが買っている裏には必ず誰かが売っています。そして第2話でも解説した通り、オプションの「買い手」は主にリスクヘッジ目的の個人投資家や事業法人であることが多く、その裏で莫大なリスクを背負って「売り手(胴元)」となっているのは巨大な資金力を持つ海外機関投資家であると推測されます。
- 買い手(個人など): 損失限定。予想が外れたら保険料を捨てるだけ。
- 売り手(機関投資家など): 損失無限大の危険。予想が外れて権利行使されると大赤字になるリスクがある。
大口の売り手は、自分が売ったオプションが権利行使される(イン・ザ・マネーになる)ことを極端に嫌います。そのため、日経平均が自分が売った価格(ストライク)に近づいてくると、自らの損失を防ぐために日経225先物を使って強引に相場を押し戻す「防戦売買」を仕掛ける傾向があります。
つまり、「大量の建玉が存在する価格帯 = 大口が死に物狂いで防衛する鉄壁のラインになる可能性が高い」と考えることができるのです。
レジスタンス(天井)とサポート(底)の探し方
理屈が分かれば探し方は非常にシンプルです。
当サイトの「オプション建玉マップ(市場全体)」や「主要プレイヤー別データ」のグラフを見て、建玉(棒グラフ)が異常に高く突出している価格帯を探すだけです。
① コールの巨大な建玉 = 上値の壁(レジスタンス)の候補
現在値より上にある、コールの建玉が集中している価格帯です。
- 背景: 「これ以上は上がらない」と見込んだ機関投資家が大量のコール売りを仕掛けている可能性があります。
- 値動き: 日経平均がこの価格に近づくと売り手が先物の売りを浴びせて叩き落とそうとする力が働きやすく、強力なレジスタンス(上値抵抗線)として機能することがあります。
② プットの巨大な建玉 = 下値の底(サポート)の候補
現在値より下にある、プットの建玉が集中している価格帯です。
- 背景: 「これ以上は下がらない」と見込んだ機関投資家が大量のプット売りを仕掛けている可能性があります。
- 値動き: 日経平均がこの価格に近づくと売り手が先物の買いを入れて下支えしようとする力が働きやすく、強力なサポート(下値支持線)として機能することがあります。
【具体例】グラフから相場のレンジ(箱)を読む
例えば、現在の日経平均が60,000円だとします。
当サイトの「市場全体 建玉残高」のグラフを見たとき、「61,000円のコール」と「59,000円のプット」の建玉(棒グラフ)が他の価格帯よりも圧倒的に高くそびえ立っていたとします。
これが意味するのは、「今週の相場は上値61,000円、下値59,000円の巨大な箱(レンジ)に閉じ込められている可能性が高い」という推測です。
このデータから仮説を立てることができれば、第8話で学んだ「アイアンコンドル戦略」をどこに配置するべきか、戦略の精度を大幅に高めることができます。まさに手口データがトレードの「カンニングペーパー」になる瞬間です。
疑問:その建玉は「買い」か「売り」か分からないのでは?
ここで、鋭い方は一つの疑問を持つはずです。
「第11話で出来高は買いか売りか分からないと書いてあった。建玉(残高)だって、それが機関投資家の『売り』なのか『買い』なのか、グラフを見ただけでは分からないのでは?」
全くその通りです。市場全体の建玉には買い残高と売り残高が同数存在します。しかしプロは以下の前提に基づき、「突出した建玉=機関投資家の売り」とみなして分析を進めることが多いです。
- 資金力の差: 数千枚という巨大な建玉(リスク)を同じ価格帯に一気に構築できるのは、莫大な証拠金を持つ海外機関投資家などの大口プレイヤーであると考えられます。
- 胴元の論理: 機関投資家はオプション市場において「保険を売る側(胴元)」として利益を出している側面があります。個人などがバラバラに買った保険(買い)の受け皿として、同じストライクに巨大な「売り壁」を構築していると推測するのが自然です。
そのため、市場全体や特定の大口(アムロやGSなど)の建玉が異常に膨らんでいるポイントは、「大口の強固な売り壁がある可能性が高い」とみなして立ち回るのが手口分析における一つのセオリーとなっています。
まとめ:手口からレジスタンスとサポートを見つける
- コールの巨大建玉: 大口の「コール売り」が潜んでいる可能性が高い、上値のレジスタンス(天井)候補。
- プットの巨大建玉: 大口の「プット売り」が潜んでいる可能性が高い、下値のサポート(底)候補。
- 防衛のメカニズム: 大口は自らのポジションを守るため、先物を使って相場を強引に押し戻す傾向がある。
- 実戦への応用: この建玉のピークを見つけ出し、その外側にスプレッド(アイアンコンドル等)を組むのが胴元の戦い方。
これで、あなたは相場に潜む「見えない壁」の候補をデータから見つけ出すことができるようになりました。
しかし……相場に絶対はありません。もし海外勢の想像を超えるような特大の悪材料(または好材料)が出て、彼らが必死に守っていた「鉄壁のライン」が完全に突破されてしまったら、一体どうなるのでしょうか?
次回【第13話】では、オプション市場における最大のクライマックス。壁が破られた瞬間に相場が狂ったように暴走するメカニズム、「デルタヘッジによる踏み上げ(急騰・暴落)」の裏側を徹底解剖します。お楽しみに!
