第2話:重要指標の解説
第1話で確認した通り、財務4表には企業の売上高や純利益、純資産といった絶対額(総額)が記載されています。しかし、企業ごとに発行済株式数や自己資本の規模が異なるため、この絶対額だけでは企業間の客観的な比較や株価の評価ができません。
本記事では、財務データを投資家向けの「標準化された指標」に変換する、3つのカテゴリの重要指標について解説します。
1. 「1株当たり」に分解する指標(EPS・BPS)
企業全体の利益や資産を、投資家が取引する最小単位である「1株」に換算した指標です。株価評価の直接的な土台となります。
① EPS(Earnings Per Share:1株当たり純利益)
- 計算式: 当期純利益 ÷ 発行済株式数
- 役割: 1株が1年間にどれだけの利益を稼ぎ出したかを示します。配当金の原資となる数字であり、投資家にとって「最終的な企業の稼ぐ力」を測る最重要指標の一つです。自社株買いを行って発行済株式数が減ると、純利益が変わらなくてもEPSは上昇します。
② BPS(Book-value Per Share:1株当たり純資産)
- 計算式: 純資産 ÷ 発行済株式数
- 役割: 企業が解散したと仮定した場合に、1株に対していくらの資産が残るか(解散価値)を示します。企業の安定性や下値支持線(これ以上は下がりにくいという水準)の目安として用いられます。
2. 「資本効率」を測る指標(ROE・ROA・ROIC)
海外機関投資家が売上規模以上に厳しくチェックするのが、「調達した資金(資本)に対して、どれだけ効率よく利益を生み出しているか」という資本効率の指標です。分母に何を置くかで3つの指標に分かれます。
| 指標 | 計算式 | コーポレートファイナンスにおける役割 |
|---|---|---|
| ROE (自己資本利益率) |
当期純利益 ÷ 自己資本 |
株主が出資したお金(自己資本)を使って、どれだけ利益を上げたかを示します。「8%以上」が資本コストを上回る最低ラインの目安とされます。負債(借金)を増やしてレバレッジを効かせると数値が上がるという特徴があります。 |
| ROA (総資産利益率) |
当期純利益 ÷ 総資産 |
負債(借入金など)と自己資本を合わせた「すべての資産」に対して、どれだけ利益を上げたかを示します。借金によるレバレッジ効果を排除して、企業全体の資産運用効率を純粋に評価する際に用います。 |
| ROIC (投下資本利益率) |
NOPAT ÷ 投下資本 |
事業活動のために投下した資本(有利子負債+自己資本)から、どれだけ本業の利益(NOPAT:税引後営業利益)を生み出したかを示します。ROEの欠点(借金で数値を操作できる点)を補う、最も厳密な事業評価指標です。 |
【補足】なぜROAやROEではなく「ROIC」を重視するのか
表にある通り、ROIC(投下資本利益率)はROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)と比べ、計算に用いる「分母」と「分子」が厳密に定義されています。
- 分母(元手の範囲)の違い: ROAの分母(総資産)には、事業に使っていない「余剰な現金」やコストのかからない「買掛金」も含まれます。そのため、現金をたっぷり持つ安全な企業ほど分母が膨らみ、数値が悪く見えてしまう弱点があります。一方、ROICの分母は「コストを払って調達し、実際に事業に投下した有利子負債と自己資本のみ」に限定されます。
- 分子(利益)の違い: ROAの分子には本業以外の特別損益(土地の売却益など)が含まれる純利益を使いますが、ROICの分子には本業の儲けから税金のみを引いた「NOPAT(みなし税引後営業利益)」を使い、一過性のノイズを排除します。
- ROEの弱点(操作性): ROEは、借金を増やして自己資本の割合を減らせば、事業の実態が変わらなくても数値を高く見せかけることができます。
ROICは、余剰現金によるノイズや借入による数値の操作(ごまかし)が効きません。「事業に投じた資金に対し、本業からどれだけリターンを生んでいるか」を純粋に測ることができるため、本来の稼ぐ力を評価する際にROICを基準として用います。
3. 「バリュエーション」を測る指標(PER・PBR)
前述のEPSやBPSと、現在の「株価」を比較することで、その株が割安か割高か(バリュエーション)を判定する指標です。
① PER(Price Earnings Ratio:株価収益率)
計算式: 株価 ÷ EPS(1株当たり純利益)
現在の株価が、1株当たりの利益の「何倍」まで買われているかを示します。たとえばPER15倍であれば、「今の利益水準が続いた場合、投資資金の回収に15年かかる株価」であることを意味します。企業の成長期待が高いほどPERは高く(割高に)許容されます。
② PBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)
計算式: 株価 ÷ BPS(1株当たり純資産)
現在の株価が、1株当たりの純資産の「何倍」まで買われているかを示します。PBR1倍が企業の解散価値(資産価値)とイコールであり、1倍を割れている企業は「事業を続けるより解散して資産を分けた方がマシ」と市場から評価されている状態(割安、あるいは成長性ゼロ)を意味します。
本記事で、決算分析する上で重要な指標である「1株当たり指標(EPS/BPS)」「資本効率(ROE/ROIC)」「バリュエーション(PER/PBR)」について解説しました。
続く第2部からは、実際に決算短信や決算説明資料を開き、目的別に「どこを見るべきか」という実践的なチェックポイントの解説に入ります。まずは「成長性(業績の伸びしろ)」を測る手法からです。
