第2話:機関投資家が組み込む理由(相関性の低さと絶対収益の追求)

第1話では、オルタナティブ投資が「非効率な市場」から独自の収益(アルファ)を抽出するメカニズムについて学びました。では、なぜGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)や海外の大学基金など、莫大な資金を動かす機関投資家は、わざわざ流動性が低く手数料も高い資産をポートフォリオに加えるのでしょうか。

第2話では、機関投資家がオルタナティブ投資をポートフォリオに組み込む「2つの決定的な理由(相関性の低さと絶対収益)」と、それがもたらす運用効率の向上について解説します。

1. 相関性の低さ:真の分散効果によるリスク低減

機関投資家がオルタナティブ投資を採用する最大の目的は、リターンの向上よりも「ポートフォリオ全体のリスク(価格の変動幅・ボラティリティ)を抑えること」にあります。ここで重要になるのが「相関係数」という概念です。

伝統的なポートフォリオ理論では、景気後退時に「株が下がり、安全資産である債券が買われる(上がる)」という逆の動きを利用してリスクを分散してきました。しかし、近年の金融危機やインフレ局面では「株も債券も同時に下がる(相関が高まる)」という現象が頻発しており、伝統的資産だけでは十分な分散効果が得られなくなっています。

一方、オルタナティブ資産は伝統的資産との相関が極めて低い(または無相関である)という特徴を持ちます。

  • 未公開株(PE): 上場市場の短期的なパニック売りやセンチメントに価格が連動しにくい。
  • 実物不動産・インフラ: 株価の変動よりも、「賃貸契約」や「利用料」という実体経済に根ざした安定的なキャッシュフローに依存する。
  • コモディティ(金や原油など): 通貨価値が下落するインフレ局面において、株式や債券とは独立して価格が上昇しやすい。

このように「株式市場の波に連動しない資産」を組み合わせることで、期待リターンを維持したまま、ポートフォリオ全体の価格変動リスクを劇的に小さくすることが可能になります。

2. 絶対収益の追求:相場環境に依存しないリターン

一般的な投資信託(アクティブファンド)の多くは、日経平均やS&P500などの株価指数をベンチマークとし、それを上回ることを目指す「相対収益」の考え方に基づいています。この場合、市場全体が30%暴落した際に「自分のファンドは25%の下落で済んだ」のであれば、運用としては成功(勝っている)と評価されます。

しかし、年金基金やヘッジファンドが追求するのは、市場全体が上がろうが下がろうが、常にプラスの利益を出すことを目指す「絶対収益(Absolute Return)」です。

【メカニズム】絶対収益を実現する「ロング・ショート戦略」

絶対収益の代表的な手法が、ヘッジファンドが用いる「ロング・ショート戦略」です。
例えば、自動車セクターにおいて「割安で競争力のあるA社株を買い(ロング)」、同時に「割高で競争力に劣るB社株を空売り(ショート)」します。もし市場全体が暴落して両社の株価が下がっても、A社の含み損を、B社の空売りによる利益でカバーできます。
つまり、「市場全体の上げ下げ(ベータ)」の影響を相殺し、2社の実力差(アルファ)のみを抽出して利益を出す構造です。これにより、リーマンショックのような危機的状況下でも利益を積み上げることが理論上可能になります。

3. シャープレシオの向上と「エンダウメント・モデル」

プロの投資家は「リターンが何%か」だけではなく、「どれだけのリスク(変動)を負担して、そのリターンを得たか」という運用効率を最も重視します。この効率性を示す指標が「シャープレシオ」です。

伝統的な「株60:債券40」のポートフォリオの一部を売却し、そこにオルタナティブ資産を20〜30%組み込むと、多くの場合、期待リターンを落とすことなくポートフォリオ全体のボラティリティが低下し、シャープレシオ(リスク調整後リターン)が明確に向上します。

この理論を極限まで実践しているのが、米国のハーバード大学やイェール大学の大学基金(エンダウメント)です。彼らは運用資産の半分以上をPE、ヘッジファンド、実物資産などのオルタナティブに投じ、何十年にもわたって高いシャープレシオを維持しながら驚異的なパフォーマンスを上げ続けています。この運用手法は「エンダウメント・モデル」と呼ばれ、現代の機関投資家におけるポートフォリオ構築の最高峰とされています。


本記事で、機関投資家がオルタナティブ投資を組み込む理由が「相関性の低さによるリスク低減」と「相場に依存しない絶対収益の追求」にあることが整理できました。