第10話:リスク・リバーサルとは?プロの方向性トレードとオプション戦略マトリックス(全網羅マップ)

第8話では「相場が動かないこと」を祈るアイアンコンドルを、第9話では「どっちでもいいから大暴れしてくれ」と祈るロング・ストラングルを解説しました。

しかし、手口分析(次章で解説します)を極めると、「下値は鉄壁の守りになっているから絶対に底抜けしない。むしろ、ここから上方向に大きく突き抜けるはずだ!」という、明確な「方向性(強気・弱気)」を確信する瞬間が必ず訪れます。

そんな時、単にコールを買うだけでは、セータ(時間的価値の減少)やIVクラッシュの餌食になりやすいことは第7話で学びました。
そこでプロのオプショントレーダーは、「絶対に到達しないと確信している『逆方向の保険』を他人に売りつけ、その売上金を使って『本命の保険』をタダ同然で手に入れる」という究極の錬金術を使います。

これが、プロの方向性トレードの代名詞とも言える最強陣形、「リスク・リバーサル」です。そして本記事の最後には、第2章の総仕上げとして、これまで学んだ全戦略が繋がる「オプション戦略マトリックス」を大公開します!

リスク・リバーサルとは?(攻防一体の方向性トレード)

リスク・リバーサルとは、強気(上がる)と予想した時に「コールの買い」と「プットの売り」を同時に行う戦略です。(弱気の場合はその逆になります)。

しかし、単なる「プットの売り(ネイキッド・ショート)」を混ぜてしまうと、万が一予想が外れて大暴落した時に損失が無限大になるという致命的な弱点を抱えてしまいます。

そこで、個人投資家が実戦で使うべきは、第8話の冒頭でも紹介した「スプレッド型のリスク・リバーサル」です。
上と下にそれぞれ「盾(クレジット)」と「槍(デビット)」を配置することで、リスクを限定し、初期費用減らしてでポジションを構築します。

【実例計算】強気リスク・リバーサルの組み方と損益構造

現在の日経平均が60,000円。手口分析の結果、「59,000円には絶対に割れない強固な底(サポート)がある。ここから上値の壁(61,000円)を突破するかもしれない」と、強気(ブル目線)の予想を立てたとします。

ここで、現在値(60,000円)を挟み込むように、以下の陣形を同時に組みます。

  • 【下側(盾)】 59,000円プット売(受取100円) / 58,500円プット買(支払30円) = 差引+70円の受け取り(クレジット)
  • 【上側(槍)】 61,000円コール買(支払100円) / 61,500円コール売(受取30円) = 差引-70円の支払い(デビット)

合計の初期費用(ネット・プレミアム): +70円 - 70円 = 0円

下で組んだ盾(クレジット)の受取金で、上で組んだ槍(デビット)の購入資金を全額まかなうことができました。

58,500円 59,000円 60,000円 61,000円 61,500円 (プット買) (プット売・下限BEP) (現在値) (コール買・上限BEP) (コール売) (日経平均) ①下落の最大損失 -50万円 ②損失変動 -50万 〜 0円 ③無風ゾーン ±0円 ④利益変動 0円 〜 +50万 ⑤最大利益 +50万円

SQ日の損益シミュレーション(右肩上がりの5ゾーン)

図解を見ると、これまでの「凹型(コンドル)」や「凸型(ストラングル)」とは全く違う、「右肩上がりの階段型」になっていることが分かります。初期費用が0円のため、BEP(損益分岐点)がストライクの価格と完全に一致する美しい形です。

③ 無風ゾーン(日経平均が59,000円〜61,000円の間で着地)

予想したほどは上がらず、いつものレンジ相場で終わってしまった状態です。
しかし、初期費用が0円であるため、すべてのオプションが紙くずになって消滅しても、あなたの損益は「プラスマイナスゼロ(無傷)」で終わります。これが最大のメリットです。

④・⑤ 利益ゾーン(上値の壁を突破)

予想通り、61,000円の上値の壁を突破した「勝利」のパターンです。
61,000円を超えた分だけ利益が増え続け、61,500円に到達した時点で、このポジションの最大利益である「+50万円」を獲得します。

①・② 損失ゾーン(予想外の底抜け大暴落)

絶対に割れないと信じていた59,000円の底(サポート)が下抜けてしまった「敗北」のパターンです。
59,000円を下回ると損失が出始めますが、58,500円に「買い(保険)」を入れているため、どれだけ歴史的な大暴落が起きても、最大損失は「-50万円」に限定(ロック)されています。

【完全保存版】オプション戦略マトリックス(全網羅マップ)

ここまで、第6話から第10話にかけて、個人投資家が実戦で使うべき主要なオプション戦略を解説してきました。
「上と下に、盾(クレジット)と槍(デビット)のどちらを配置するか」表にまとめておきます。

相場の予想 上側(コール)の配置 下側(プット)の配置 完成する陣形(戦略名)
動かない
(レンジ相場・無風)

(クレジット・売長)

(クレジット・売長)
アイアンコンドル
(第8話)
大暴れする
(イベント通過・ブレイク)

(デビット・買長)

(デビット・買長)
リバース・アイアンコンドル
(第9話)
上に突き抜ける
(強気・ブル目線)

(デビット・買長)

(クレジット・売長)
強気のリスク・リバーサル
(第10話 / 本記事)
下に底抜けする
(弱気・ベア目線)

(クレジット・売長)

(デビット・買長)
弱気のリスク・リバーサル
(第10話 / 本記事)

まとめ:第2章 実践ストラテジー編の完結

ここまで学んできたように、プロのオプショントレーダーは「なんとなく上がりそうだから買う」といった丁半博打は絶対にしません。
自分の予想に合わせて、盾(クレジット)と槍(デビット)をレゴブロックのように組み合わせ、「損失を限定しつつ、勝率や資金効率を極限まで高めた自分だけの陣形(スプレッド)」を構築して相場に挑みます。

これで、あなたは主要な「武器(戦略)」を手に入れました!

しかし、一番重要なパズルがまだ一つ残っています。
「じゃあ、その盾や槍を『いくらの価格(ストライク)』に配置すればいいのか?」

次回【第11話】から始まる第3章では、いよいよ本連載の核心テーマに突入します。相場を支配するアムロやゴールドマン・サックスといった「海外機関投資家のオプション手口(建玉表)」を解読し、彼らが構築している「見えない壁と底」を分析する方法を徹底解説します。お楽しみに!