1.経営成績等の概況 ………………………………………………………………………………………………2
(1)当期の経営成績の概況 ……………………………………………………………………………………2
(2)当期の財政状態の概況 ……………………………………………………………………………………7
(3)当期のキャッシュ・フローの概況 ………………………………………………………………………8
(4)研究開発活動 ………………………………………………………………………………………………8
(5)今後の見通し ………………………………………………………………………………………………23
2.会計基準の選択に関する基本的な考え方 ……………………………………………………………………24
3.財務諸表及び主な注記 …………………………………………………………………………………………25
(1)貸借対照表 …………………………………………………………………………………………………25
(2)損益計算書 …………………………………………………………………………………………………27
(3)株主資本等変動計算書 ……………………………………………………………………………………28
(4)キャッシュ・フロー計算書 ………………………………………………………………………………30
(5)財務諸表に関する注記事項 ………………………………………………………………………………31
(継続企業の前提に関する注記) ………………………………………………………………………………31
(株主資本の金額に著しい変動があった場合の注記) ………………………………………………………31
(収益認識関係) …………………………………………………………………………………………………31
(セグメント情報等) ……………………………………………………………………………………………31
(持分法損益等) …………………………………………………………………………………………………31
(1株当たり情報) ………………………………………………………………………………………………32
(重要な後発事象) ………………………………………………………………………………………………32
1.経営成績等の概況
当社の経営成績、財政状態、キャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)及び研究開発活動の概要は、次のとおりです。
(経営成績の概要)
当社は、医療現場の課題を解決するために、多様なモダリティ(医薬品、医療機器、AIを活用したプログラム医療機器)を医師・研究者とともに医療現場で開発しています。
医薬品事業は研究開発費や研究開発期間の規模が大きく事業リスクが高い分野ですが、上市後には高い収益が期待できます。一方、医療機器やプログラム医療機器事業は医薬品と比べて開発規模・リスクともに小さく、比較的早期に当社収益に繋がります。これら2つの事業ポートフォリオを、同時に複数のパイプラインを進めることで、リスクを分散しながら早期の黒字化と将来の収益の拡大を目指します。
これまでの製薬企業やスタートアップ企業の多くはパイプラインのバリューチェーン(開発の全ての工程の積み上げ)を自社で全て構築し、事業価値を高めることに注力してきました。大手製薬企業は潤沢な資金を背景に、多くのパイプラインのバリューチェーンを自社独自で形成することができますが、スタートアップ企業のように資金が潤沢でない場合は難しいです。当社は、公的資金や外部研究機関・医療機関のリソースを活用することで、開発コストを抑え、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存のスタートアップ企業とは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。実際に、限られた人的資源および経費で多くのパイプラインを拡充し、モダリティの展開を進めており、着実に成果は上がっています。自社資源や社内環境のみにこだわるのではなく、むしろ外部資源や外部環境を積極的に活用し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築しています。大学や様々な異業種企業との連携や協業を基にオープンイノベーションを推進し、効率的な開発を推進していきます。
医薬品領域では、「がん」や「肺疾患」分野での開発を実施してきましたが、今後国際的な事業成長が期待される「抗加齢・長寿分野」での研究及び事業にも注力します。これまでの抗加齢医療は食事療法、運動療法、サプリメント・健康食品などが大半でしたが、今後は老化細胞を除去し老化関連疾患を抑制する内服薬(senolytic drug)など新たな医薬品の創出が重要です。当社のプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(PAI)-1阻害薬RS5614は、内服で抗加齢・長寿の可能性を有する医薬品候補であり、『ヒトが心身共に生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造する』という当社理念の実現のみならず、超高齢化という社会的及び医学的に大きな課題を解決することができ、さらには当社の企業価値の向上にも大きく貢献できます。ノースウエスタン大学(米国)、キング・アブドラ国際医療研究センター(サウジアラビア)、台北医学大学(台湾)など先進的な研究・医療機関とPAI-1阻害薬RS5614のがんや抗加齢・長寿の臨床試験を実施予定であり、国際的な研究並びに事業の展開が可能です。大きな事業成長が見込まれる抗加齢・長寿分野での研究開発及び事業を推進するために必要な資金を調達すべく、第三者割当による資金調達を実施し、がん分野における実用化の加速と適応拡大、抗加齢・長寿の非臨床試験や臨床試験を計画しています。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度の末日現在において判断したものです。
当事業年度における研究開発活動の実績(総括)を以下に記載します。(専門用語等は(4)研究開発活動の文末にて補足説明をしておりますので、そちらをご参照ください)。
a. 医薬品
当社PAI-1阻害薬RS5614の開発経緯やがんや抗加齢・長寿領域の開発に関しては、科学誌『Nature』の取材記事も参照ください(2023年9月7日、2025年12月1日、2026年2月26日開示)。
(がん)
PAI-1阻害薬RS5614は、免疫系を活性化し、がん細胞や老化細胞の除去を促進させるなどの作用を示します。現在、国内で複数のがん種に対する治験を実施中です(慢性骨髄性白血病第Ⅲ相試験、悪性黒色腫第Ⅲ相試験、血管肉腫第Ⅱ相試験、肺がん第Ⅱ相試験、膵臓がん第Ⅱ相試験)。まずは、国内外で早期承認のための希少がん(悪性黒色腫、血管肉腫、慢性骨髄性白血病)を対象とした第Ⅲ相試験を実施し、薬事承認を取得することにより、本医薬品の上市と臨床応用を目指します。悪性黒色腫の第Ⅲ相試験は既に日本で開始しており(2025年2月18日適時開示)、薬事承認に向けた国外でのブリッジング試験については複数の国の規制当局と協議中です(2025年12月15日適時開示)。血管肉腫に関しては、日本で実施中の第Ⅱ相試験が終了し(2025年12月12日適時開示)、既存治療に比べて極めて良い結果が得られたことから(2026年2月10日適時開示)、薬事承認に向けた第Ⅲ相試験を速やかに実施する予定です。並行して、大きな市場を有する肺がん、膵臓がんなどへ適応を拡大し、第Ⅱ相試験を実施しています(2025年11月26日、2025年12月16日適時開示)。
□ 慢性骨髄性白血病(CML): AMED「革新的がん医療実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受け(2022年3月22日適時開示)、第Ⅲ相試験を開始しました(2022年8月3日適時開示)。東北大学、東海大学、秋田大学など12の大学・医療機関と共同で、CML患者を対象にチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)とRS5614の併用効果を検証するプラセボ対照二重盲検試験です。TKI治療期間が3年以上6年未満の慢性期CML患者60例を対象に、TKI単独投与群よりも治験薬RS5614の併用群において、無治療寛解維持の指標である2年間以上のDMR維持率が有意に上昇することを検証しています。2023年12月末で症例登録を完了し、最終的に解析に必要な症例数を上回る57例が登録されました。2024年12月に実施されたAMEDの最終年度評価で、第Ⅲ相試験の目標症例数の登録が完了し試験が順調に進んでいることが確認されたため、助成期間の延長が承認されました(2024年12月3日適時開示)。その後も試験は予定通り順調に経過しており、2026年3月期さらに2027年3月期にもAMEDの助成を受けることが決定しました(2025年5月7日、2026年2月12日適時開示)。
□ 悪性黒色腫(メラノーマ):2021年5月にAMED「橋渡し研究プログラムシーズC(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択され、同年7月から第Ⅱ相試験を開始し、2023年3月末に目標症例数40例全例の患者登録を完了しました。その結果、外科的切除が難しく、免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブが無効な悪性黒色腫患者に対して、ニボルマブとPAI-1阻害薬RS5614を8週間併用することで、既承認の治療(ニボルマブ+イピリムマブ:国内奏効率13.5%)を上回る奏効率24.1%が得られました。また、ニボルマブとイピリムマブ併用で臨床上問題になっている重篤な副作用は認められませんでした(2024年2月22日適時開示)。厚生労働省より悪性黒色腫に対する希少疾病用医薬品の指定を受けたことで(2024年9月2日適時開示)、薬価算定における市場性加算が適用され、承認後の再審査期間が延長されます。これにより本治療薬事業の独占期間が長くなります。
現在、根治切除不能悪性黒色腫患者124例を対象に、ニボルマブとRS5614との併用の有効性及び安全性を検証するランダム化プラセボ対照二重盲検の第Ⅲ相試験を、東北大学病院など国内18施設で実施しています(2025年2月18日適時開示)。国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の令和7年度希少疾病用医薬品等試験研究助成事業に、本試験が採択され(2025年7月16日適時開示)、2025年4月~2028年3月の間の3事業年度にわたり、悪性黒色腫関連研究費の2分の1を上限として助成が受けられます。本試験では124名の患者を予定していますが、2026年4月21日時点で89名が登録されました。
また、台湾での薬事承認を視野に、台北医学大学とブリッジング試験を実施するための契約を締結しました(2025年12月15日適時開示)。台北医学大学が主体となって、台湾の規制当局(TFDA)と第Ⅲ相試験の協議を進めています。
□ 血管肉腫治療薬:東北大学など7医療機関と「皮膚血管肉腫に対するパクリタキセルとRS5614併用の安全性・有効性を検討する第Ⅱ相試験(2023年10月26日適時開示)」を実施しています。16例の症例登録を完了し(2025年6月20日適時開示)、全登録患者の投与が終了しました(2025年12月12日適時開示)。
速報結果(主要評価項目の対象15症例)では、治療開始28週時点における画像判定(中央判定)による奏効率は完全奏効12.5%でした。さらに、無増悪生存期間(PFS)及び生存期間(OS)は、それぞれ4.0ヶ月及び20.8ヶ月で、国内前向き臨床試験であるパゾパニブ(JCOG1605)の結果(2.8ヶ月、12.1ヶ月)を凌駕する結果が得られました。また、15例中13例(86.7%)で病勢の安定が確認され、高い病勢制御率が示されました(2026年2月10日適時開示、その後奏効率の数字を修正)。一方、副作用の発現は少なく、因果関係が否定できないGrade3以上の有害事象は16例中5例(31.25%:肝機能障害及び白血球減少)と、重篤な有害事象は認められませんでした。JCOG1605におけるGrade3以上の有害事象の70%と比較しても、良好な忍容性が示されています。現在、本試験の評価及びデータ解析を進めており、最終的な治験総括報告書は2026年6月頃を予定しています。
□ 非小細胞肺がん治療薬:広島大学など6医療機関と「非小細胞肺がんにおけるニボルマブとPAI-1阻害薬(RS5614)併用療法の安全性・有効性を検討する第Ⅱ相試験(2023年9月26日適時開示)」を実施し、36症例の登録を終了しました(2025年7月3日適時開示)。治験調整医師(治験代表医師)及び治験責任医師(実施医師)から、有効性(奏効)が確認できている患者でRS5614の内服継続を希望する声があることから、治験期間を3ヶ月延長し(2025年11月26日適時開示)、試験を終了しました(2026年3月5日適時開示)。結果(速報)は、全症例(3次治療以降)での評価は、主要評価項目である奏効率(ORR)は8.3%、副次評価項目である6ヶ月無増悪生存割合(PFS)22.5%でした。そのうち3次治療として本治験治療を受けた11例で評価すると、奏効率18.2%、6ヶ月無増悪生存割合27.5%と高い有効性を示す結果が得られており、既報(Clin Cancer Res. 2022 28: OF1-OF7. doi: 10.1158/1078-0432.CCR-22-0602)のニボルマブ単剤療法と比較して約10%の抗腫瘍効果の上乗せを示す結果でした。安全性についても、治験治療が関連した重篤な有害事象(Grade 3以上)は13.8%であり(既報のニボルマブ単剤療法では20.3%)、重篤な副作用は認められませんでした。最終的な治験総括報告書は2026年8月頃を予定しています。
実施中の第Ⅱ相試験において、RS5614の免疫チェックポイント阻害薬の効果増強が期待されること、また、早期の治療でより高い有効性が得られていることから、次相として「局所進行非小細胞肺がんを対象に、初回標準治療である化学放射線療法と免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブによる地固め療法に対するPAI-1阻害薬(RS5614)併用療法の有効性と安全性を検討する医師主導治験」を、広島大学病院など12医療機関と2026年4月に開始しました(2025年11月26日、2026年4月24日適時開示)。本試験はAMEDの令和8年度「臨床研究・治験推進研究事業」に採択されましたので、当初想定していた本試験費用の支出が少なくなり、2027年3月期から2029年3月期までの収益性が改善する見込みです(2026年3月9日適時開示)。
□ 膵臓がん治療薬:膵がんは悪性腫瘍における疾患別死亡数の第3位でありながら、早期発見が極めて困難な悪性疾患です。診断時に切除可能な症例は15-20%に過ぎず、46.3%が遠隔転移陽性と診断されます。そこで、「遠隔転移を有する切除不能膵がん又は再発膵がんに対するゲムシタビン及びナブパクリタキセル療法とRS5614併用の安全性・有効性を検討する第Ⅱ相試験」を開始するため、東北大学病院など3医療機関で医師主導治験を開始する予定です(2025年12月16日適時開示)。既に、PMDAとの対面助言を終了し、臨床プロトコールも確定し、治験審査委員会(IRB)からの承認を得ており、PMDAへの治験届も提出されています。
(呼吸器疾患)
□ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺傷害:2021年6月からAMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて、後期第Ⅱ相試験を開始しました。2022年10月に患者登録を完了し、治験総括報告書をまとめました(2023年4月17日適時開示)。本後期第Ⅱ相試験はオミクロン株の変異等により対象となる新型コロナウイルス肺炎患者(中等症、入院患者)数が減少し、目標より少ない症例数で治験を完了しました。早期治療におけるRS5614の有効性を示唆する結果を得られました(2023年4月17日適時開示)。
□ 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患治療薬:全身性強皮症(systemic sclerosis)は、皮膚と内臓諸臓器の血管障害と線維化を特徴とする全身性の自己免疫疾患(指定難病51)で、間質性肺疾患は死因の35%を占めます。AMEDの令和5年度「難治性疾患実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて(2023年3月15日適時開示)、東北大学、東京大学、大阪大学など12医療機関と「全身性強皮症に伴う間質性肺疾患に対するPAI-1阻害薬RS5614の第Ⅱ相試験」を開始し(2023年10月19日適時開示)、全登録患者の投与(1年間)が予定通り完了し(2025年11月25日適時開示)、試験は終了しました(2026年4月10日適時開示)。結果(速報)、主要評価項目である48週時点の%FVCの変化量については、RS5614群においてプラセボ群に対する有意な上乗せ効果は認められませんでした。一方、皮膚硬化の指標であるmRSSについては、48週時点単独では明確な群間差を認めませんでしたが、治療経過全体を踏まえた追加解析において改善傾向が示唆されました。
(抗加齢・長寿関連)
□ ヒト臨床試験:2024年12月にXPRIZE財団が主催するXPRIZE Healthspan(https://www.xprize.org/competitions/healthspan)に東北大学など国内複数の研究機関と共同で応募しました。XPRIZE Healthspanは、健康寿命を10年以上延ばすことができた研究チームに対して、総額1億米ドルを支払うという国際的なコンペティションです。当社はTOP40(セミファイナリスト)に入賞し、賞金25万米ドルを獲得しました(2025年5月13日適時開示)。
XPRIZE Healthspanの公募要項によれば、セミファイナリスト(TOP40)は、最終的な4年間のファイナル臨床試験の実現可能性を支持するための短期間(4週〜8週)、小規模(5~20人)の臨床試験をセミファイナル臨床試験として実施しなければいけません。そこで、加齢に伴い発症する疾患(高血圧症、2型糖尿病、慢性腎臓病、高脂血症)を有し、症状が安定している50歳以上75歳以下の20例を対象に、RS5614を16週間投与する非盲検試験をセミファイナル臨床試験として実施しました(2025年8月18日適時開示)。これまでRS5614は多くのがん患者には投与されてきましたが、比較的健康な高齢者を対象に投与されたことはないため、安全性の確認が必要になります。投与期間が極めて短期間であり、各種臓器の抗老化作用を評価することは難しいと考えられたため、老化、免疫、代謝、骨・筋肉、認知・神経生理、抗酸化、造血幹細胞など、各種臓器の老化に関わるエピゲノム(遺伝子修飾)、遺伝子、タンパク、細胞などのバイオマーカーの変動を解析しました。実施医療機関は東北大学、さらに検査などの協力機関として広島大学、東海大学が参加しました。RS5614を4ヶ月間投与した前後の検査が実施できた19名の患者(平均年齢60.4±5.6歳、男性13名、女性6名)を有効性評価の対象とし、RS5614投与を受けた20名の患者を安全性評価の対象としました。試験結果(速報)は2026年5月中頃を予定しています。
また、以下の機関とXPRIZE Healthspanのファイナル試験を共同で実施する基本合意書を締結しています。
• ノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)(2025年11月10日適時開示)
• 台北医学大学(2025年12月15日適時開示)
• サウジアラビア・キング・アブドラ国際医療研究センター(King Abdullah International Medical Research Center(KAIMRC))(2026年2月9日適時開示)
□ 男性型脱毛症及び加齢性脱毛症外用薬:米国ノースウエスタン大学との共同研究により、PAI-1を過剰発現するマウスで著しい脱毛が生じ、PAI-1阻害薬RS5441を経口投与すると著明な発毛が認められることが分かりました。2016年10月に皮膚科疾患用途におけるRS5441の独占的権利をエイリオン社に許諾し、同社が男性型脱毛症及び加齢性脱毛症外用薬(ET-02)として開発を進めています。男性型脱毛症(加齢性脱毛症)治療に対する安全性と有効性を評価する第Ⅰ相臨床試験では、ET-02(RS5441)の安全性・忍容性が確認され、プラセボ群と比較して非軟毛(または正常)の毛数が6倍に増加することが報告されました(2024年7月3日、2025年1月9日適時開示)。同社において、引き続き米国における第Ⅱ相臨床試験に向けた準備・検討が進められています。
□ 動物医薬品:RS5614の抗加齢・長寿に対する作用はヒトのみならず、イヌやネコを主とするコンパニオンアニマルなど動物医療にも有用と期待されることから、動物用医薬品の分野での研究を開始しました。まずは、イヌ及びネコにおける安全性確認試験を開始し(2025年11月19日適時開示)、終了しました(2026年2月4日適時開示)。今後、イヌ(関節炎、メラノーマなどの皮膚がん)やネコ(慢性腎臓病)に対する有効性を検討します。
□ 国際共同研究:
米国:当社はノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)の日本の研究室を、東北大学内の当社オープンイノベーション拠点である東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(TREx)内に設立しました(2025年1月22日適時開示)。さらに、東北大学とノースウエスタン大学は、がんや長寿の研究や臨床試験に関する包括的な基本合意書を締結しており(2025年11月10日適時開示)、その一環としてXPRIZE Healthspanの当社チームに参加し、XPRIZE Healthspanのファイナル試験を共同で実施する予定です。
サウジアラビア:当社はサウジアラビア最大の研究・医療機関である「キング・アブドラ国際医療研究センター(KAIMRC)」と基本合意書を締結し(2025年10月6日適時開示)、XPRIZE Healthspanのファイナル試験を共同で実施する予定です(2026年2月9日適時開示)。
台湾:台北医学大学と、国内で実施している悪性黒色腫の第Ⅲ相試験について、台湾での薬事承認を視野にブリッジングスタディを実施するための契約を締結しました(2025年12月15日適時開示)。
現在、ノースウエスタン大学、KAIMRC、台北医学大学が、それぞれの国の薬事規制当局(Food and Drug Administration (FDA), Saudi Food and Drug Authority (SFDA), Taiwan Food and Drug Administration (TFDA))と臨床試験に向けた協議を進めています。
b. 医療機器
□ ディスポーザブル極細内視鏡:この極細内視鏡は、腹腔内を可視化するためのファイバースコープ部分と操作性を容易にするためのガイドカテーテル部分から構成されています。ファイバースコープ部分はPMDAへの承認申請(2022年9月14日適時開示)を経て、厚生労働省から薬事承認を受けています(2022年12月26日適時開示)。
株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルとガイドカテーテル作成を含む医療機器開発の共同研究契約を締結し(2022年9月1日適時開示)、その後ライセンス契約を締結しました(2024年5月20日適時開示)。多施設共同臨床試験でも有害事象は認められず、安定期腹膜透析患者の臨床評価を補完する有意義な非侵襲的検査法であることが確認されました(2024年6月24日、2026年3月4日適時開示)。ガイドカテーテルの開発及び製造の目処がつき、ガイドカテーテルとファイバースコープを合わせて2026年内に薬事申請する予定です。
c. 人工知能(AI)を活用したプログラム医療機器
疾患の診断や治療を支援する人工知能(AI)の開発に取り組んでおり、呼吸機能検査診断、維持血液透析医療支援、糖尿病治療支援、嚥下機能低下診断のためのプログラム医療機器(SaMD)を開発しています。当社のAIプログラム医療機器の開発については、科学誌『Nature』の取材記事も参照ください(2024年3月18日開示)。
□ 呼吸機能検査診断:京都大学、チェスト株式会社、NECソリューションイノベータ株式会社(NES)と共同で開発しています。2023年3月に開発段階の研究を終了し、チェスト株式会社で事業化への開発が進められています。チェスト株式会社から事業化段階への移行に関するマイルストーン(2023年6月14日適時開示)。及び対象地域拡大(国際展開)に係るオプション権行使に伴う一時金も受領しています(2025年2月12日適時開示)。
□ 維持血液透析医療支援:聖路加国際大学、東北大学、ニプロ株式会社、日本電気株式会社(NEC)、NESと共同で開発しています。AMED「医療機器開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は協力機関)」に採択されました(2023年2月27日適時開示)。薬事承認申請のための臨床性能試験を実施し(2024年10月21日適時開示)、目標症例数である150症例の登録を完了しました(2025年4月9日適時開示)。解析の結果、主要評価項目の目標正解率80%を10%上回る正解率92.2%を達成し、専門医に対するAI予測の非劣性(同等性)が実証されました(2025年10月20日適時開示)。また、実用化加速のためAMEDから研究費(調整費)143,000千円の追加配賦を受けました(2025年9月10日適時開示)。実用化に向けて、東レ・メディカル株式会社(2023年12月8日適時開示)、ニプロ株式会社(2024年3月14日適時開示)と共同開発契約を締結しています。さらに薬事承認・事業化を加速するため、ニプロ株式会社との共同開発契約変更に関する覚書を締結しました(2025年10月30日適時開示)。2022年10月に基本となる知的財産権を出願し、2023年5月に国際出願、2024年1月には新たな知財を追加出願しました。
□ 糖尿病治療支援:東北大学、NEC、NESと共同で開発しており、AMED「医工連携イノベーション推進事業(開発・事業化事業)(当社が代表機関)」に採択されています(2022年4月20日適時開示)。薬事承認のための臨床性能試験を実施し(2024年8月19日適時開示)、目標症例数である130症例の登録を完了しました。解析の結果、最終的な正解率(平均)は85.46%と目標正解率80%を5%上回りました。専門医に対するAI予測の非劣性(同等性)が実証され、総括報告書をまとめています(2025年3月6日適時開示)。また、2022年6月に基本となる知的財産権を出願し、2023年4月に国際出願を行いました。また、本AIを含む糖尿病関連のAI研究において、東北大学とユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のマッチングファンドに採択され、国際共同研究を推進しています(2026年3月3日適時開示)。
□ 嚥下機能低下診断:東北大学、NECと共同で音声から嚥下機能の低下を診断するプログラム医療機器を開発しています。健常者と嚥下機能低下患者の音声を区別できるAIの開発はすでに完了しており、2023年3月に基本となる知的財産権を出願しました。さらに、2023年12月にはPMDA開発前相談を実施しました。
□ その他のプログラム医療機器:乳がん病理診断、心臓植込み型電気デバイス患者における不整脈・心不全発症予測、人工心臓患者における血栓発生予測などの新たなAIを活用したプログラム医療機器を開発しています。人工心臓患者における血栓発生予測では株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルと共同研究を開始しました(2022年9月1日適時開示)。
□ その他の関連事項:台北医学大学(TMU)の完全子会社であるTMU-Biotech社と、台湾でのプログラム医療機器の研究開発・実用化を目的に共同開発契約を締結しました(2024年8月30日適時開示)。台北医学大学は6つの病院を擁しており、豊富な医療データを活用したSaMDの研究開発が実施可能です。キング・アブドラ国際医療研究センター(KAIMRC)とも、プログラム医療機器の開発・事業化に向けた基本合意書を締結しています(2025年10月6日適時開示)。2024年度から国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)(代表機関:東北大学)に参画し、災害時においても安全安心な医療を提供するためのプログラム医療機器のデジタルツインモデル(リアル空間にある情報をインターネット技術などで集め、送信されたデータを元にサイバー(仮想)空間でリアル空間を再現する技術)の開発を進め、2025年3月に本事業を終了しました(2024年3月7日適時開示)。
(事業収益に関する実績)
東レ・メディカル株式会社と人工知能(AI)搭載型血液透析医療機器の開発に関する共同開発契約を締結しており、共同研究の対価としてマイルストーン収入を計上しました。また、ニプロ株式会社と慢性透析患者の透析治療時における除水量の最適値を予測する人工知能(AI)アルゴリズムを活用した製品に関する共同開発契約を締結しており、共同研究の対価として契約一時金を計上しました。また、共同開発契約を延長したことに伴う契約一時金を計上しました。
なお、当社ではCML及び全身性強皮症に伴う間質性肺疾患、核酸医薬品の開発プロジェクトがAMED事業に採択されており、研究開発業務を受託し、受託業務の対価を受託研究収入として計上しています。
以上の結果、当事業年度における事業収益は、人工知能(AI)搭載型血液透析医療機器の開発に係る東レ・メディカル株式会社からのマイルストーン収入の計上及び慢性透析患者の透析治療時における除水量の最適値を予測する人工知能(AI)アルゴリズムを活用した製品に係るニプロ株式会社からの契約一時金並びにAMED事業に係る受託研究収入の計上により68,554千円(前事業年度は事業収益132,693千円)となりました。また、営業損失は、慢性骨髄性白血病(CML)治療薬や悪性黒色腫治療薬、非小細胞肺がん治療薬、皮膚血管肉腫治療薬、膵臓がん治療薬、抗加齢作用を評価する臨床研究等に係る研究開発費201,663千円を含む事業費用421,093千円を計上したことにより356,885千円(前事業年度は営業損失178,827千円)、経常損失は、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所及び自治体からの助成金収入27,009千円、世界的な長寿医療コンペティションXPRIZE Healthspanで TOP40(セミファイナリスト)に入賞したことによるコンテスト賞金収入36,975千円、未収入金の為替換算に伴う為替差損1,326千円を計上したことなどにより300,272千円(前事業年度は経常損失178,987千円)、当期純損失は、法人税、住民税及び事業税1,004千円を計上したことにより301,276千円(前事業年度は当期純利益113,427千円)となりました。
なお、当社の事業は単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
(資産)
当事業年度末の流動資産は、前事業年度末の1,871,252千円と比べて1,631,900千円増加し、3,503,153千円となりました。これは主として第三者割当にかかる資金調達を実施したことにより、現金及び預金が1,602,888千円増加したことなどによるものです。
また、当事業年度末の固定資産は、前事業年度末と同額の110千円となりました。
この結果、資産合計は、前事業年度末の1,871,362千円と比べて1,631,900千円増加し、3,503,263千円となりました。
(負債)
当事業年度末の流動負債は、前事業年度末の151,210千円と比べて29,375千円増加し、180,585千円となりました。これは主として、取引先への未払金が31,222千円増加したことなどによるものです。
この結果、負債合計は、前事業年度末の151,210千円と比べて29,375千円増加し、180,585千円となりました。
(純資産)
当事業年度末の純資産は、前事業年度末の1,720,151千円と比べて1,602,525千円増加し、3,322,677千円となりました。これは主として、第三者割当にかかる資金調達を実施したことにより資本金と資本準備金がそれぞれ945,614千円増加したことなどによるものです。
当事業年度における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前事業年度末の1,799,816千円に比べ1,602,888千円増加し、3,402,705千円となりました。
当事業年度における各キャッシュ・フローの状況と主な変動要因は次のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度の営業活動資金の支出額は291,307千円(前事業年度は176,342千円の支出)となりました。これは主として、税引前当期純損失300,272千円の計上などによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度の投資活動資金の収支はありません(前事業年度は382,147千円の収入)。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度の財務活動資金の収入額は1,894,196千円(前事業年度は52,182千円の支出)となりました。これ
は主として、株式の発行による収入1,881,622千円を計上したことなどによるものです。
当社は、医薬品・医療機器・AIを活用したプログラム医療機器など、多様なモダリティ(治療様式)にわたる複数パイプラインの研究開発を進めており、当事業年度における主要パイプライン開発の進捗及びこれまでの開発実績は以下のとおりです。
なお、当事業年度における研究開発費は201,663千円であり、当事業年度末の当社研究開発従事者人員は5名(臨時雇用者を含む)です。
当社の研究開発活動の方針
事業ポートフォリオ
当社は、大きく医薬品と医療機器・プログラム医療機器の2つの事業ポートフォリオを手掛けていますが、これはリスクを分散し、早期の黒字化と将来の収益の拡大を目指すからです。医薬品事業は研究開発費や研究開発期間の規模が大きく事業リスクが高い分野ですが、上市後には高い収益が期待できます。一方、医療機器やプログラム医療機器事業は医薬品と比べると小さいですが、研究開発費や研究開発期間の規模や事業リスクは小さく、比較的早期に当社収益に繋がります。
がんと抗加齢・長寿
PAI-11)阻害薬RS5614とRS5441の開発が主体です。PAI-1阻害薬RS5614は、免疫系を活性化しがん細胞や老化細胞の除去を促進させるなどの作用の他に、抗血栓、抗炎症や抗線維化など多様な作用を有しています。国内では複数のがん種(慢性骨髄性白血病第Ⅲ相試験、悪性黒色腫2)第Ⅲ相試験、血管肉腫第Ⅱ相試験、肺がん第Ⅱ相試験、膵臓がん第Ⅱ相試験)に対する治験を実施中です。まずは、日本で希少がん(悪性黒色腫、血管肉腫、慢性骨髄性白血病)に対する薬事承認を目指します。
また、国際展開に向けて、悪性黒色腫の第Ⅲ相試験は既に日本で開始しているため(2025年2月18日適時開示)、薬事承認に向けての国外でのブリッジング試験を複数の国の規制当局と協議中です(2025年12月15日適時開示)。血管肉腫に関しては、日本で実施中の第Ⅱ相試験が終了し(2025年12月12日適時開示)、既存治療に比べて極めて良い結果が得られたので(2026年2月10日適時開示)、薬事承認に向けて速やかな第Ⅲ相試験を実施する予定です。並行して、大きな市場を有する肺がん、膵臓がんなどがん種へ適応を拡大し、第Ⅱ相試験を実施しています(2025年11月26日適時開示、2025年12月16日適時開示)。PAI-1阻害薬RS5614の抗炎症や抗線維化作用を活用した肺疾患領域での開発も進めており、新型コロナウイルス感染や全身性強皮症に伴う肺障害を対象とした第Ⅱ相試験も実施してきました。
今後国際的な規模での成長が期待される「抗加齢・長寿分野」での研究並びに事業にも注力します。これまでの抗加齢・長寿の医療は食事療法、運動療法、サプリメント・健康食品などが大半でしたが、今後は老化細胞を除去し、老化関連疾患を抑制する内服薬(senolytic drug3))など新たな医薬品の創出が必要です。当社のPAI-1阻害薬RS5614は、そのコンセプトに合致する医薬品候補であり、『ヒトが心身共に生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造する』という当社理念の実現のみならず、超高齢化という社会的及び医学的に大きな課題の解決にも貢献できると考えています。XPRIZE Healthspanへの参加・入賞を通じて国際的な認知度を向上させることは、グローバルな展開にも繋がります。
がん分野における実用化の加速と適応拡大、大きな事業成長が見込まれる抗加齢・長寿研究の展開に必要な資金を調達すべく、第三者割当による資金調達を実施しました(2025年11月28日適時開示)。
オープンイノベーション
当社は、公的資金や外部研究機関・医療機関のリソースを積極的に活用し、少ない自社リソースで多くのパイプラインを効率的に推進してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存のスタートアップ企業とは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。実際に、少ない人的資源や経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティの展開をしており、着実に成果は上がっています。自社資源や社内環境のみにこだわるのではなく、むしろ外部資源や外部環境を積極的に活用し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築しています。大学や様々な異業種企業との連携や協業を基にオープンイノベーションを推進し、効率的な開発を推進していきます。具体的には、東北大学との「Tohoku University x Renascience Open innovation Labo:TREx」、広島大学との「Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx」、ノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)の日本研究室などオープンイノベーション拠点の設置、台北医学大学やサウジアラビアのキング・アブドラ国際医療研究センター(King Abdullah International Medical Research Center:KAIMRC)との連携などです。
基礎研究の重視
自社シーズに対する臨床応用の適応を拡大するためには、基礎研究を広く展開する必要があります。自社化合物をオープンリソースとして基礎研究者に提供し研究いただくことで新たな用途の発見に取組んでいます。その中から、科学・医学的、事業性の観点から適切な適応疾患を選別し、医師主導治験で検証します。基礎研究成果は、共同研究を実施した大学等研究機関と共同で特許を出願し、当社事業の基盤となる知的財産の確保に努め、当社が独占的な実施権の許諾を受けた後に事業化開発を進めます。
医師主導治験
当社は基礎研究から臨床試験まで広く研究を実施している医師(physician-scientistという)との共同研究を重視しています。基礎研究分野で共同研究を行っている多くの研究者は医師でもあり、自ら治験調整医師(治験責任者)として医師主導治験を実施できるため、基礎研究から臨床試験まで一気通貫で効率的な開発が可能です。当社の治験は基本的に医師主導治験で実施しています。当社のこれまでの医師主導治験実績は31件に上りますが、医師主導治験には多くの利点があります。医師自ら治験を立案及び実施できますので、医療現場での課題や実情に合った試験計画や枠組みで実施できます。これにより、少ない自社リソースでも希少疾患や難治疾患の患者登録を短期間で完了させ、パンデミックの緊急事態時に迅速に臨床試験を実施できるなど、スタートアップとしての機動力が発揮されています。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度の末日現在において判断したものです。
a.RS5614(PAI-1阻害薬)
(a) 慢性骨髄性白血病(CML)治療
血液がんである慢性骨髄性白血病(CML)は、骨髄内の「骨髄ニッチ4)」と呼ばれる部位に存在する血液細胞の元になる細胞(造血幹細胞5))の遺伝子に変異が生じ、がん化した疾患です。CMLに対する標準治療は、イマチニブなどの分子標的治療薬であるチロシンキナーゼ6)阻害薬(TKI)です。TKIの開発によりCML患者の生存率は大きく改善しました。TKIはCML細胞には作用しますが、CML細胞の元になる細胞(CML幹細胞)には作用しないことから、TKIを休薬するとCML細胞は再び増殖し、がんが再発します。CMLを治療するためには長期にわたる高額なTKI治療の継続が必要です。
最近、深い分子遺伝学的奏効(deep molecular response、DMR:がんの原因遺伝子が検出されない状態)7)が一定期間継続しているCML患者では、TKIを中止しても再発が生じない状態(無治療寛解維持)となることが明らかになりました。しかし、3年間程度の治療期間で無治療寛解維持を達成できる患者の割合は5〜10%にしか過ぎません。無治療寛解維持を達成するためには、少なくとも2年以上のDMRの維持が必要とされています。
当社PAI-1阻害薬RS5614はCML幹細胞に作用して、骨髄ニッチから遊離させます(Blood 2017)。遊離したCML幹細胞はTKIにより死滅するために、骨髄ニッチのCML幹細胞は消滅して、CMLを根治できる可能性が示唆されました。実際に、CMLモデルマウスにRS5614とTKIを併用することで、TKI単独投与に比べて骨髄に残るCML幹細胞数が著明に減少し、生存率を大きく向上させることが可能です(Blood 2017)。
後期第Ⅱ相試験
CML患者を対象にTKIとRS5614を併用し、RS5614投与開始後48週の有効性と安全性を確認するための後期第Ⅱ相試験(非盲検)を、東北大学、秋田大学、東海大学の大学・医療機関で実施しました。その結果、33例中DMRを達成した症例は11例(33.3%)であり(TKI治療期間が3年以上5年以下の患者では50.0%)、過去の試験結果に基づくヒストリカルコントロール8)の8%と比較して4倍程度上昇しました。重篤な有害事象も認められず、TKIとRS5614併用の有効性及び安全性が確認されました(Cancer Medicine 2023)。
第Ⅲ相試験
後期第Ⅱ相試験の成績に基づいて、東北大学、東海大学、秋田大学など12の大学・医療機関と共同で、CML患者を対象にTKIとRS5614の併用効果を検証するプラセボ対照二重盲検9)の第Ⅲ相試験を実施中です(2022年8月3日適時開示)。本試験は日本医療研究開発機構(AMED)10)「革新的がん医療実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の助成を受けています(2022年3月22日適時開示)。TKI治療期間が3年以上6年未満のCML患者60例を対象とし、TKIとRS5614の併用によるDMR達成率の有意な上昇と2年間の無治療寛解維持を検証します。2024年12月に実施されたAMED「革新的がん医療実用化研究事業」の最終年度評価の結果、第Ⅲ相試験の目標症例数の登録が予定通り2023年12月に完了し、順調に実施されているとの理由から、助成期間が延長されました(2024年12月3日適時開示)。2026年3月期さらに2027年3月期にも助成を受けることが決定しました(2025年5月7日、2026年2月12日適時開示)。
(b) 悪性黒色腫(メラノーマ)治療薬
悪性黒色腫は表皮にある色素を作る細胞(メラノサイト)のがんで、悪性度が高いがんです。欧米と比較すると日本の患者数は約4,000人と希少ながんです。日本の患者は、海外とは異なる遺伝子変異を有していることから、標準治療である免疫チェックポイント分子11)阻害薬の抗PD-1抗体(ニボルマブ、商品名オプジーボ)12)による治療が効きにくいことが報告されています(Ann Oncol. 2020)。抗CTLA4抗体(イピリムマブ、商品名:ヤーボイ)13)とニボルマブとの併用による奏効率14)は33.3%と、ニボルマブ単剤の20%と比べて高いですが、併用患者の約70%で重度の免疫関連副作用が発症することが問題となっています。さらに、2種類の高額な抗体医薬を使用しなければなりません。そのため、副作用が無く、奏効率を向上でき、抗体医薬より安価な、内服で使用できる簡便な併用薬の開発が望まれています。
第Ⅱ相試験
民間非営利組織(NPO)「Japan Skin Cancer Network(JSCaN)」に属する東北大学、筑波大学、都立駒込病院、近畿大学、名古屋市立大学、熊本大学の6大学と共同で、悪性黒色腫に対するRS5614とニボルマブとの併用の有効性と安全性を確認するための第Ⅱ相試験(非盲検)を実施しました。本試験は、AMED「橋渡し研究プログラムシーズC(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の助成を受けて実施した多施設共同、非盲検試験です。RS5614をニボルマブと8週間併用することにより、29例の患者のうち7例において奏効(24.1%)が確認され、ニボルマブとイピリムマブの併用の奏効(海外21%、国内13.5%)を凌駕する結果が得られました(2024年2月22日適時開示)。さらに、ニボルマブとRS5614の併用により62%という高い病勢制御率15)も得られました。一方、ニボルマブとイピリムマブ併用で生じる重篤な免疫関連副作用は認めませんでした(2024年2月22日適時開示)。本治験の結果は科学誌『British Journal of Dermatology』に掲載されました(2024年6月7日適時開示)。
第Ⅱ相試験の結果から、厚生労働省より悪性黒色腫に対する希少疾病用医薬品指定16)を受けました(2024年9月2日適時開示)。希少疾病用医薬品指定を受けたことにより、悪性黒色腫治療薬としてのRS5614の薬価算定における市場性加算が加わり、さらに承認後の再審査期間が延長されて本治療薬事業の独占期間が長くなります。
第Ⅲ相試験
現在、根治切除不能悪性黒色腫患者124例を対象に、ニボルマブとRS5614との併用の有効性及び安全性を検証する第Ⅲ相試験を、ランダム化プラセボ対照二重盲検試験として、東北大学病院など国内18施設で実施しています(2025年2月18日適時開示)。国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の令和7年度希少疾病用医薬品等試験研究助成事業に、第Ⅲ相試験を対象とした申請が採択され(2025年7月16日適時開示)、2025年4月~2028年3月の間の3事業年度において、悪性黒色腫の関連研究費として支出した経費の2分の1を上限とし、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の当該事業予算の範囲内で事業年度毎に助成を受けられます。本第Ⅲ相試験では、124名の患者を予定していますが、2026年4月21日時点で89名登録と順調に進んでいます。
台湾における薬事承認を視野に台北医学大学とブリッジングスタディ17)を実施するための契約を締結しました(2025年12月15日適時開示)。現在、台北医学大学が主体となって、台湾の規制当局であるTaiwan Food and Drug Administration (TFDA) と臨床試験に向けた協議を進めています。
(c) 血管肉腫治療薬
血管肉腫は国内約300人程度の極めて希少ながんであり、5年生存率は9%と非常に低く、悪性度の高いがんです。血管肉腫の標準治療の第1選択薬はパクリタキセル18)ですが、血管肉腫患者の全生存期間は649日と短く、長期寛解を得ることは困難です。PAI-1は主として血管内皮から産生されるため、血管内皮細胞の腫瘍である血管肉腫には、PAI-1が多く発現しております。血管肉腫の患者検体を用いた解析で、PAI-1が多く発現している患者の予後は悪いことが明らかとなっています。パクリタキセルはがん細胞を死滅(アポトーシス)19)させますが、PAI-1を多く発現しているがん細胞はアポトーシスに耐性であることから、PAI-1の発現量が多い血管肉腫では、パクリタキセルが効きにくいと考えられます。
第Ⅱ相試験
PAI-1阻害薬RS5614を併用することにより、パクリタキセルの治療効果を増強できる可能性に基づき、東北大学など7医療機関と「皮膚血管肉腫20)に対するパクリタキセルとRS5614併用の安全性・有効性を検討する第Ⅱ相試験(非盲検)」を開始し(2023年10月26日適時開示)、16例の症例登録を完了し(2025年6月20日適時開示)、全登録患者の投与を予定どおり完了しました(2025年12月12日適時開示)。
速報結果(主要評価項目の対象15症例)では、治療開始28週時点における画像判定(中央判定)による奏効率は完全奏効12.5%でした。さらに、無増悪生存期間21)(PFS)及び生存期間22)(OS)は、それぞれ4.0ヶ月及び20.8ヶ月で、国内前向き臨床試験であるパゾパニブ(JCOG1605)の結果(2.8ヶ月、12.1ヶ月)を凌駕する結果が得られました。また、15例中13例(86.7%)で病勢の安定が確認され、高い病勢制御率が示されました(2026年2月10日適時開示、その後奏効率の数字を修正)。一方、副作用の発現は少なく、因果関係が否定できないGrade3以上の有害事象は16例中5例(31.25%:肝機能障害及び白血球減少)と、重篤な有害事象は認められませんでした。JCOG160523)におけるGrade3以上の有害事象の70%と比較しても、良好な忍容性が示されています。現在、本試験の評価及びデータ解析を進めており、最終的な治験総括報告書は2026年6月頃を予定しています。
(d) 非小細胞肺がん治療薬
肺がんは日本のがん死亡原因の第一位であり、非小細胞肺がんは全体の85%を占めます。その中で根治的手術が適応とならない局所進行非小細胞肺がん患者は年間1万人にも至ります。非小細胞肺がんモデルマウスを用いた非臨床試験により、免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブとRS5614の併用投与はニボルマブ単剤投与よりも高い治療効果が得られることを確認しました。さらに、PAI-1ががん血管の新生をもたらし、肺がん細胞の増殖能を亢進していること、ニボルマブに耐性となった肺がん細胞がPAI-1を多く発現していることなどを見出しました。
前期第Ⅱ相試験
切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん患者(3次治療以降の患者)を対象に、広島大学、島根大学、岡山大学、鳥取大学、四国がんセンター、広島市民病院などの医療機関と協力して、ニボルマブとRS5614との併用投与の有効性及び安全性を確認するための前期第Ⅱ相試験を開始し(2023年9月26日適時開示)、症例登録を終了しました(2025年7月3日適時開示)。治験調整医師(治験代表医師)及び治験責任医師(実施医師)から、有効性(奏効)が確認できている患者でRS5614の内服継続を希望する声があったことから、治験期間を3ヶ月延長し(2025年11月26日適時開示)、試験を終了しました(2026年3月5日適時開示)。結果(速報)は、全症例(3次治療以降)での評価は、主要評価項目である奏効率(ORR)は8.3%、副次評価項目である6ヶ月無増悪生存割合(PFS)22.5%でした。そのうち3次治療として本治験治療を受けた11例で評価すると、奏効率18.2%、6ヶ月無増悪生存割合27.5%と高い有効性を示す結果が得られており、既報(Clin Cancer Res. 2022 28: OF1-OF7. doi: 10.1158/1078-0432.CCR-22-0602)のニボルマブ単剤療法と比較して約10%の抗腫瘍効果の上乗せを示す結果でした。安全性についても、治験治療が関連した重篤な有害事象(Grade 3以上)は13.8%であり(既報のニボルマブ単剤療法では20.3%)、重篤な副作用は認められませんでした。最終的な治験総括報告書は2026年8月頃を予定しています。
後期第Ⅱ相試験
局所進行非小細胞肺がん患者に対しては、根治を目的として化学放射線療法が標準治療として行われ、化学放射線療法後に病勢進行や重篤な放射線肺障害を含む合併症が認められない症例では、免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブ24)による地固め療法25)が施行されます。前期第Ⅱ相試験において、RS5614の免疫チェックポイント阻害薬の効果増強が期待されること、また、早期の治療でより高い有効性が得られていることから、後期第Ⅱ相試験として「局所進行非小細胞肺がんを対象に、初回標準治療である化学放射線療法と免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブによる地固め療法に対するPAI-1阻害薬(RS5614)併用療法の有効性と安全性を検討する医師主導治験」を、広島大学病院など12医療機関と2026年4月に開始しました(2025年11月26日、2026年4月24日適時開示)。非小細胞肺がんに対する初回標準治療の課題として、1)放射線治療に対する抵抗性、2)化学治療に対する耐性、3)免疫チェックポイント阻害薬に対する耐性、4)放射線や免疫チェックポイント阻害薬に伴う肺障害(副作用)などがあります。次相試験の目的は、根治手術が適応とならない局所進行非小細胞肺がん患者を対象とし、根治照射を含む化学放射線療法及びデュルバルマブによる地固め療法にPAI-1阻害薬RS5614を併用することで、1)化学放射線療法及びデュルバルマブによる抗腫瘍効果増強による根治率の向上と、2)放射線療法及びデュルバルマブによる肺障害(副作用)の抑制による治療安全性の改善が得られるかを検討し、RS5614併用治療が現行の初回標準治療を上回る新たな治療となり得るかを明らかにすることです。
本試験はAMEDの令和8年度「臨床研究・治験推進研究事業」に採択されましたので、当初想定していた本試験費用の支出が少なくなり、2027年3月期から2029年3月期までの収益性が改善する見込みです(2026年3月9日適時開示)。当社は、国立大学法人広島大学と非小細胞肺がんに対する非臨床試験及び臨床試験に向けての共同研究契約を締結し、さらに包括的研究協力に関する協定書を締結して(2023年4月24日適時開示)、オープンイノベーション拠点(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を設けています。これら肺がんの治験はHiRExを主体に実施しています。
(e) 膵臓がん治療薬
膵がんは悪性腫瘍における疾患別死亡数の第3位ですが、早期発見が極めて困難な悪性疾患であり、診断時に切除可能な膵がんは15-20%に過ぎず、46.3%が遠隔転移陽性26)と診断される予後不良のがんです。膵がんで長期生存を得るには根治的切除が必須ですが、たとえ根治的切除が達成されても切除後の再発が極めて多い悪性腫瘍であり、その予後は18.8-31.3%と未だに不良です。遠隔転移を有する膵がんや切除後再発膵がんに対する標準治療は化学療法ですが、有効な治療法が少なく、FOLFIRINOX療法27)(奏効率、31.6%;全生存期間、11.1ヶ月)やゲムシタビン及びナブパクリタキセル療法(GnP療法:奏効率、29%;全生存期間、8.5ヶ月)にても5年生存率は全体で10%程度であり(遠隔臓器やリンパ節に転移した段階であるステージ4では1~3%)、既存の標準治療を増強する治療薬が求められています。
PAI-1は、膵臓がんの予後不良因子の1つです。PAI-1阻害薬RS5614は、がん組織において、上皮間葉転換28)の抑制、Tリンパ球の活性化、腫瘍浸潤マクロファージ29)(TAM)の減少、腫瘍内のTリンパ球数の増加、がん細胞上の免疫チェックポイント分子発現の低下、がん細胞の免疫チェックポイント分子阻害薬への耐性解除、腫瘍免疫微小環境の改善、腫瘍免疫の活性化などの作用を有しています(2025年11月11日当社ニュース掲載)。また、PAI-1阻害薬の薬理作用である抗血栓作用や抗線維化作用、さらにはがん関連線維芽細胞30)(CAF)の減少は、膵がんの腫瘍環境を考える上でも有用な薬理作用を有しています。
第Ⅱ相試験
「遠隔転移を有する切除不能膵がん又は再発膵がんに対するゲムシタビン及びナブパクリタキセル療法とRS5614併用の安全性・有効性を検討する第Ⅱ相試験(非盲検)」を開始しました(2025年12月16日適時開示)。2026年5月から東北大学病院など3医療機関と共同で、遠隔転移を有する切除不能膵がん又は再発膵がん患者50名を対象に第Ⅱ相試験を実施する予定です。既に、PMDAとの対面助言を終了し、臨床プロトコールも確定し、治験審査委員会(IRB)からの承認を得ており、PMDAへの治験届も提出されています。
(f) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺傷害治療薬
2020年初頭からわずか数ヶ月ほどの間に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、医療面と社会面の両方で大きな問題となりました。感染者の多くは軽症でしたが、一部の高齢者や糖尿病、腎臓病患者は重症肺炎に至りました。軽症患者は在宅療養で様子を見ていましたが、発症時は軽症でも急速に重症化する症例も多く、外来患者にも経口投与が可能である安全な肺炎の重症化を防ぐ治療薬の開発が喫緊の課題でした。COVID-19による重症肺炎では炎症や線維化などの病変が急速に進行し、血管内皮障害や凝固亢進の特徴的な所見が認められることから、PAI-1阻害薬の有する抗血栓、線溶、抗線維化、抗炎症などの作用が有効と考えられました。そこで、速やかに治験の準備に着手し(PMDA相談、治験薬製造、臨床プロトコール確定)、半年後の2020年秋にはCOVID-19肺炎に対するPAI-1阻害剤の安全性を評価するための前期第II相試験(非盲検)を実施し、2021年6月に治験総括報告書をまとめました。PAI-1阻害薬RS5614を投与された肺炎の入院患者26名全員が副作用もなく無事退院されました(Scientific Reports 2024)。2021年3月にAMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択され、2021年4月のPMDA事前面談に基づき実施計画書を確定し、2021年6月から東北大学、京都大学、東京科学大学、東海大学等国内20の大学等の医療機関と共同で、COVID-19に伴う肺傷害患者(中等症、入院患者)を対象とするプラセボ対照二重盲検の後期第Ⅱ相試験を開始しました。本治験は、COVID-19の流行時期やウイルス株変異の影響を受け、治験の対象となる肺炎入院患者数が減少したため、最終的に入院患者75例(RS5614群39例、プラセボ群36例)を対象に試験を終了し、治験総括報告書をまとめました(2023年4月17日適時開示)。有効性の主要評価項目である「酸素化悪化指標スケール31)の総和」は、両群間で統計学的な有意差は認めませんでしたが、プラセボ群に対してRS5614群で悪化の抑制が見られ、特に中等症Ⅰ患者32)での有効性が示唆されました。さらに、酸素治療が必要となる症例の割合も、入院後3~5日でRS5614群の方が少ないことから、早期治療でのRS5614の有効性が示唆されました。また、RS5614群では、プラセボ群と異なり、肺炎画像所見の改善も認めました。副作用発現率はRS5614群とプラセボ群で同程度であり、COVID-19に伴う肺傷害患者に対するRS5614の安全性も確認できました。
RS5614は抗ウイルス薬とは作用機序が全く異なり、内服が可能な医薬品です。現在、COVID-19は落ち着いていますが、将来の新たなウイルスの発生に際して速やかに臨床試験が実施できるよう準備をしています。前期及び後期第Ⅱ相医師主導治験の結果は、2024年1月に科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。
(g) 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患治療薬
全身性強皮症(systemic sclerosis)は、皮膚と内臓諸臓器の血管障害と線維化を特徴とする全身性の自己免疫疾患で難病に指定されています(指定難病51)。全身性強皮症は免疫異常、血管障害、線維化を主な病態として、臓器線維化による臨床症状として、レイノー症状33)、皮膚硬化、間質性肺疾患(Interstitial lung disease、ILD)、強皮症腎クリーゼ34)、心病変、肺動脈性肺高血圧症35)など、さまざまな多臓器障害を生じます。他の自己免疫疾患に比してステロイドや免疫抑制薬の効果は限定的です。特に間質性肺疾患は全身性強皮症の死因の35%を占めており、また間質性肺疾患が直接の死因とならない場合でも、高度な呼吸機能低下により生活の質(QOL)や日常の生活動作(ADL)の著しい低下を招きます。間質性肺疾患に対しては、ステロイドや免疫抑制薬が第一選択薬ですが、その治療効果は充分ではありません。近年、抗線維化薬36)であるニンテダニブが承認されましたが、進行を抑制する作用はあるものの、間質性肺疾患を改善する作用は無く、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患に対する新規治療薬の開発が強く望まれています。
第Ⅱ相試験
AMEDの令和5年度「難治性疾患実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択され(2023年3月15日適時開示)、東北大学など12医療機関と「全身性強皮症に伴う間質性肺疾患に対するPAI-1阻害薬RS5614の第Ⅱ相試験(プラセボ対照二重盲検試験)」を開始し(2023年10月19日適時開示)、全登録患者の投与(1年間)を予定通り完了しています(2025年11月25日適時開示)。結果(速報)、主要評価項目である48週時点の%FVC37)の変化量については、RS5614群においてプラセボ群に対する有意な上乗せ効果は認められませんでした。一方、皮膚硬化の指標であるmRSS38)については、48週時点単独では明確な群間差を認めませんでしたが、治療経過全体を踏まえた追加解析において改善傾向が示唆されました。
(h) 抗加齢・長寿研究
当社が開発したPAI-1阻害薬RS5614を用いた国内及び米国の研究機関との共同研究により、加齢に関連して発症する種々の疾患や長寿に対する応用の可能性を強く示唆する一連の知見が明らかとなっています。
ⅰ 細胞の老化(Senescence)
生物の細胞は、細胞老化39)と呼ばれる現象のために無制限には増殖できません。この現象には、遺伝子のテロメア長40)の短縮、p53,p21,p16ink4aなどの細胞周期調節因子41)が関与しています。老化した細胞はPAI-1の発現が極めて高いことが分かっています。当社が開発したPAI-1阻害薬RS5614は、細胞周期調節因子、老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)染色42)、IL-6等インターロイキンなどの細胞老化随伴分泌現象(SASP:senescence-associated secretory phenotype)43)、DNA損傷応答44)などの老化バイオマーカーを改善し、心筋細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞の細胞老化が阻害します(Oncotarget 2016)。また、ヒト早老症であるハッチンソン-ギルフォード症候群45)の患者線維芽細胞のDNA損傷を減弱し、ミトコンドリア障害を改善し、細胞の老化を改善することが報告されました。(Cell Death and Disease, 2022)。
ⅱ 組織や個体の老化(Aging)
細胞のみならず、老化した組織や個体(klothoマウス46)、早老症として有名なウェルナー症候群47)のヒト)でも、PAI-1の発現が高いことが報告されました(Proc Natl Acad Sci USA. 2014)。当社、東北大学や米国ノースウエスタン大学との共同研究で、老化(早老症)モデルであるklothoマウスを用いた非臨床試験では、PAI-1の発現や活性を遺伝子あるいはタンパク質レベルで阻害することにより、老化の主症状を改善し、正常マウスと同じ寿命を維持できることを明らかにしました(Proc Natl Acad Sci USA. 111: 7090, 2014)。
ⅲ 加齢に関連する疾患
加齢とともに、がん、血管(動脈硬化)、肺(肺気腫、慢性閉塞性肺疾患)、代謝(糖尿病、肥満)、腎臓(慢性腎臓病)、骨筋肉(骨粗鬆症、変形性関節症、サルコペニア)、脳(脳血管障害、アルツハイマー病・認知症)などの関連した様々な疾患が発症します。興味深いことに、これら疾患の病的組織ではPAI-1の発現は極めて高く、PAI-1阻害薬RS5614を投与することで病態が改善できることが明らかとなりました(Biomedical J, 2026)。
RS5614は、血管老化の進展を抑制するだけでなく、RS5614投与前の血管老化症状よりもさらに症状を改善することが明らかになりました(J Clin Invest. 2025)。「人は血管とともに老いる」といわれるように、加齢とともに血管が老化し、この血管の老化が健康寿命に大きく影響すると考えられます。現代の様々な生活習慣病(高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、高脂血症)が血管老化を加速します。当社PAI-1阻害薬RS5614が血管の老化を防止するだけでなく、回復させる作用もあることが示唆されたことはPAI-1阻害薬の抗加齢作用として極めて重要な知見であると考えております。また、当社のPAI-1阻害薬の老化細胞などの除去機序が、科学誌『Cell Death Discovery』に掲載されました(2026年3月30日開示)。
ⅳ 長寿家系の疫学的調査
米中西部に暮らすキリスト教の一派アーミッシュ48)の人々の健康な老い方については、10年以上にわたって研究が行われました。米国ノースウエスタン大学との共同研究で、アーミッシュコミュニティーの人々を調査し、PAI-1遺伝子を持たない人は持っている人に比べて10年長生きすることを見出しました(Science Advances 2017)。この事実は、2017年11月にニューヨーク・タイムズを始め(THE NEW YORK TIMES, NOVEMBER 21, 2017)、多くの新聞で報道されました。さらに、アーミッシュのヒトと同じPAI-1遺伝子の異常を有するマウスの寿命は、正常のマウスに比べて20%程度長いことも示されました(J Clin Invest. 2025)。
ⅴ 国際長寿コンペティションXPRIZE Healthspan
PAI-1阻害薬RS5614の抗加齢・長寿作用に基づき、「老化細胞を除去し、老化関連疾患を抑制する新規低分子医薬品」のコンセプト(Senolytic drug)を提唱し、東北大学、東海大学、広島大学の研究機関及び医療機関との共同でXPRIZE Healthspan(https://www.xprize.org/prizes/healthspan)に応募しました。XPRIZE財団49)が主催するXPRIZE Healthspanは、健康寿命を積極的に10年以上延伸することを目的とし、2030年までに健康寿命を延ばすことができた研究チームに対して、総額1億米ドルを支払うという世界的な長寿コンペティションです。世界から600以上のエントリー、200以上の書類申請があり、治療アプローチとして、低分子医薬品、バイオ医薬品(エクソソーム、免疫調節剤、抗体医薬)、遺伝子治療、幹細胞治療、医療機器(デジタルヘルスデバイス、電気医療機器、磁気医療機器)、サプリメント、機能性食品、食事制限、運動療法、さらにそれらの組み合わせが提案されました。
当社は、米国ニューヨークで開催されたXPRIZE Healthspanの受賞セレモニーでTOP40(セミファイナリスト)に入賞し、賞金25万米ドルを受け取りました(2025年5月13日適時開示)。セミファイナリストは、セミファイナル臨床試験50)を実施し、2026年3月末に報告書を提出します。2026年8月にTOP10(ファイナリスト)が選出され(賞金100万米ドル)、最終コンペティションのための4年のファイナル臨床研究51)が実施されます。ファイナル臨床研究を実施したTOP10のチームの中からグランプリが選ばれます(最大8,100万米ドル)。
XPRIZE Healthspanの公募要項によれば、セミファイナリスト(TOP40)は、最終的な4年間のファイナル臨床試験の実現可能性を支持するための短期間(4週〜8週)、小規模(5~20人)の臨床試験をセミファイナル臨床試験として実施しなければいけません。そこで、加齢に伴い発症する疾患(高血圧症、2型糖尿病、慢性腎臓病、高脂血症)を有し、症状が安定している50歳以上75歳以下の20例を対象に、RS5614を16週間投与する非盲検試験をセミファイナル臨床試験として実施しました(2025年8月18日適時開示)。これまでRS5614は多くのがん患者には投与されてきましたが、比較的健康な高齢者を対象に投与されたことはないため、安全性の確認が必要になります。投与期間が極めて短期間であり、各種臓器の抗老化作用を評価することは難しいと考えられたため、老化、免疫、代謝、骨・筋肉、認知・神経生理、抗酸化、造血幹細胞など、各種臓器の老化に関わるエピゲノム(遺伝子修飾)、遺伝子、タンパク、細胞などのバイオマーカーの変動を解析しました。実施医療機関は東北大学、さらに検査などの協力機関として広島大学、東海大学が参加しました。RS5614を4ヶ月間投与した前後の検査が実施できた19名の患者(平均年齢60.4±5.6歳、男性13名、女性6名)を有効性評価の対象とし、RS5614投与を受けた20名の患者を安全性評価の対象としました。試験結果(速報)は2026年5月中頃を予定しています。本プロジェクトに関して、ノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)(2025年11月10日適時開示)、台北医学大学(2025年12月15日適時開示)、サウジアラビアのキング・アブドラ国際医療研究センター(King Abdullah International Medical Research Center:KAIMRC)(2026年2月9日適時開示)との間で、臨床試験を共同で実施するための基本合意書を締結しています。
長寿関連事業(医療用医薬品、OTC医薬品52)、さらには動物医薬品)は、超高齢化を背景に経済や生活に与える効果も極めて大きな成長分野です。PAI-1阻害薬RS5441の脱毛症治療薬としての実例もあり、当社のPAI-1阻害薬の抗加齢・長寿研究をさらに展開する予定です。なお、当社のがん及び抗加齢・長寿領域に関連する取材記事が、科学誌『Nature(Digital edition)』、『Nature Biotechnology』、『Nature Reviews Drug Discovery』に掲載されました(2025年12月1日、2026年2月26日開示)。
(i) RS5441(PAI-1阻害薬)男性型脱毛症及び加齢性脱毛症外用薬
毛髪は毛が伸びる成長期、毛が抜けやすくなる退行期、毛が抜ける休止期と複数の相からなる周期を持って成長しています。男性型脱毛症(AGA)は,毛周期を繰り返す過程で成長期が短くなり,休止期にとどまる毛包(毛根を包み成長させる組織)が多くなる疾患で、日本人男性の頻度は50代以降で40%以上です。米国ノースウエスタン大学との共同研究により、PAI-1を過剰発現するマウスは脱毛が激しく、一方このマウスにPAI-1阻害薬RS5441を経口投与すると著明な発毛が認められることが分かりました。RS5441の投与により総毛包数が93.5%増加し、退行期の毛包数は64%減少しました。
2016年10月に皮膚科疾患用途におけるRS5441の独占的権利をエイリオン社に許諾し、同社で男性型脱毛症及び加齢性脱毛症外用薬(ET-02)として開発されています。男性型脱毛症患者の頭皮組織移植片60検体を用いた非臨床試験で、ET-02による治療4ヶ月目の発毛率は標準治療薬ミノキシジルによる発毛率の4倍高いという結果が得られました。男性型脱毛症(加齢性脱毛症)治療に対する安全性と有効性を評価する第Ⅰ相臨床試験が開始され(2024年7月3日適時開示)、ET-02(RS5441)は安全で、良好な忍容性を示し、プラセボ群と比較して非軟毛(または正常)の毛数が6倍に増加することが報告されました(2025年1月9日適時開示)。同社において、引き続き米国における第Ⅱ相臨床試験に向けた準備・検討が進められており、将来的にET-02が商業化された場合にはエイリオン社からロイヤリティを受領する予定です。なお、特許期間満了(2029年3月31日)後も一定期間((a) ET-02 の製品が当社許諾特許の有効な請求範囲でカバーされる最終日、(b) ET-02 の製品に関する規制またはデータ独占権の満了日、及び (c) ET-02 の製品の最初の販売から10 年後、のいずれか遅い日まで)ロイヤリティが受領できる契約となっております。
(j) 動物医薬品
RS5614の抗加齢・長寿に対する作用や薬理特性はヒト医療のみならず、イヌやネコを主とするコンパニオンアニマルなど動物医療分野でも有用であることが期待できることから、イヌやネコを対象とした動物用医薬品分野での研究を開始しました。具体的には、イヌやネコへの有効性を確認するために、安全性試験(非臨床試験)や臨床試験を実施予定です。まずは、イヌ及びネコにおける安全性確認試験を実施しました(2025年11月19日適時開示)。イヌ及びネコに28日間RS5614を想定薬効用量の10倍量経口投与しましたが、ネコで食事量の減少を認める他は、一般症状の観察、血液学的検査及び血液生化学的検査など特に問題となる有害事象を認めませんでした(2026年2月4日適時開示)。今後、イヌ(関節炎、メラノーマなどの皮膚がん)やネコ(慢性腎臓病)への病気に対する有効性を検討する予定です。
b.RS8001(ピリドキサミン53))更年期障害治療薬
更年期障害は、内分泌学的変動に加えて心理・社会的ストレスが加わることにより発症するホットフラッシュ・発汗などの血管運動神経症状、易疲労感・関節痛などの身体症状、うつ・不安・不眠などの精神症状を呈します。東京科学大学・女性健康医学講座では、これら症状がビタミンB6の摂取量と逆相関することを見出しました。2021年12月に更年期障害に対するRS8001(ピリドキサミン)の臨床研究に関して東京科学大学と共同研究契約を締結しました(2021年12月15日適時開示)。2023年3月にAMED「女性の健康の包括的支援実用化研究事業(代表機関:東京科学大学、当社は協力機関)」に採択され、臨床研究が開始されました。本臨床研究では、プラセボ効果をできる限り排除する目的でプラセボリードイン方式を採用した二重盲検法(各群25名)で実施しています。
c.RS9001(ディスポーザブル極細内視鏡)
腹膜透析は在宅での透析を可能とし、医療経済的にもメリットのある治療法です。しかし、腹膜が経年劣化し重篤な合併症を引き起こす事があるので、5年程度で腹膜透析治療が中止される症例が多いです。腹膜の状態を確認するためには、開腹手術若しくは腹腔鏡による侵襲的な観察しか無く、患者にも負担を強いています。腹膜透析患者は透析液を注入するチューブを常に腹膜に挿入した状態にあるため、この細いチューブを通して挿入し非侵襲的に腹腔内を観察する極細内視鏡の開発を着想し、東北大学、順天堂大学、東京慈恵会医科大学らと共同開発しました。多くの医師の意見を基に、医療現場のスペックに適した外径約1mm程度のディスポーザブルファイバースコープ54)です。本医療機器は、従来の消化器系の内視鏡とは異なるコンセプトで開発されたもので、胃瘻チューブ、尿道バルーン、気管チューブ、注射針からの挿入が可能で、様々な臨床的有用性も期待できます
この極細内視鏡は、腹腔内を可視化するためのファイバースコープ部分と操作性を容易にするためのガイドカテーテル55)部分から構成されています。ファイバースコープはPMDAに承認申請され(2022年9月14日適時開示)、厚生労働省から薬事承認されました(2022年12月26日適時開示)。本製品の詳細は、以下のとおりです。
・ 承認番号:30400BZX00294000
・ 一般的名称:軟性腹腔鏡
・ 販売名:経カテーテル腹腔鏡 PD VIEW
・ 類別コード:器 25
株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルと付属品であるガイドカテーテル作成を含めた医療機器開発に関する共同研究契約を締結し(2022年9月1日適時開示)、その後株式会社ハイレックスメディカルとライセンス契約を締結し(2024年5月20日適時開示)、開発を進めています。ガイドカテーテルの開発及び製造の目処もつき、多施設共同臨床試験でも有害事象は認められず、安定期腹膜透析患者の臨床評価を補完する有意義な非侵襲的検査法であることが確認されました(2024年6月24日、2026年3月4日適時開示)。ガイドカテーテルの開発及び製造の目処がつき、ガイドカテーテルとファイバースコープを合わせて2026年内に薬事申請する予定です。
d.人工知能(AI)を活用したプログラム医療機器の開発
当社は、1)医療ニーズの把握と医療現場での開発を重視する視点、2)多くの医師や診療科とのネットワーク、3)医薬品や医療機器の医師主導治験で蓄積された経験やノウハウを基に、医師と医療機関、AI技術を有するITベンダー、出口の製薬・ヘルステック企業間を結ぶハブとなり、医療分野でのAI研究から事業までを繋げるエコシステムの創出にも取り組んでいます。薬機法に則った臨床試験(医師主導治験)が実施できるために、実地臨床に役立てられる本格的なAI医療ソリューション(診断、治療)の開発も可能です。現在、呼吸機能検査診断、維持血液透析医療支援、糖尿病治療支援、嚥下機能低下診断などの領域でAIを活用したプログラム医療機器(SaMD)を開発しています。当社のAIを活用したプログラム医療機器の開発に関しては、科学誌『Nature』の取材記事も参照ください(2024年3月18日開示)。
台北医学大学は6つの病院を擁し、ベッド数は3,000床に至り、それら豊富な医療データを活用してSaMDの研究開発が実施可能です。サウジアラビア最大の研究・医療機関である「キング・アブドラ国際医療研究センター(KAIMRC)」との間でも、プログラム医療機器の開発や事業化に向けた連携を進めていくための基本合意書を締結しました(2025年10月6日適時開示)。2024年度から国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)(代表機関:東北大学)に参画しました(2024年3月7日適時開示)。災害時においても安全安心な医療を提供するためのプログラム医療機器のデジタルツインモデル(リアル空間にある情報をインターネット技術などで集め、送信されたデータを元にサイバー(仮想)空間でリアル空間を再現する技術)の開発を進め、2025年3月に本事業を終了しました。
(a) RSAI01(呼吸機能検査診断プログラム医療機器)
世界保健機関(WHO)では、がん・糖尿病・循環器疾患に加えて呼吸器疾患を重要な疾患として考えています。代表的な呼吸器疾患は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息などです。呼吸器機能を診断する検査の普及が不十分なために、COPDなど呼吸器疾患の有病率、罹患率、死亡率などは明らかではありません。呼吸器疾患や呼吸器機能の検査の中でスパイロメトリーが最も重要ですが、患者の協力(努力呼吸)が必要である点に加えて、正しく検査が行えたかどうかを判定し、かつ出力された結果(フローボリューム曲線)を解釈することが非専門医には難しいことも課題です。非専門医でも簡便に結果解釈できるシステムの開発は、呼吸器疾患を診断し、早期治療を行う上で重要な医療課題と考えられます。フローボリューム曲線を解釈するプログラム医療機器を、京都大学、チェスト株式会社、NECソリューションイノベータ株式会社(NES)と共同で開発しています。2023年3月に開発段階の研究を終了し、チェスト株式会社より事業化段階への移行に関するマイルストーンを受領し(2023年6月14日適時開示)、さらに対象地域拡大(国際展開)に係るオプション権行使に伴う一時金を受領しました(2025年2月12日適時開示)。
(b) RSAI02(維持血液透析医療支援プログラム医療機器)
慢性腎不全患者は、廃絶した腎臓の代わりに除水と老廃物の除去を行うために週3回、生涯にわたって血液透析を受けます。除水不足は心不全、高血圧等心肺機能に障害を与える一方、過度な除水は透析中の低血圧を生じ、気分不良、意識消失といった有害事象をもたらします。不適切な除水量の設定により除水不足や過除水が生じ有害事象が発生すると医療従事者は患者対応に追われ、大きな負担となります。透析病院では数十名の患者を対象に、1名の医師、数名の看護師や臨床工学技士を中心に管理が行われていますが、人的資源は充分ではなく、透析中に発生する急激な低血圧などの合併症の発生は、少ない人的資源を消費し、患者の生命予後にも悪影響を及ぼします。安全安心な血液透析を実現するために、適切な目標総除水量を予測するプログラム医療機器を、聖路加国際大学、東北大学、ニプロ株式会社、日本電気株式会社(NEC)、NESと共同で開発しています。このプログラム医療機器はNEC北米研究所と共同で開発した人工知能(AI)であるDual-Channel Combiner Network(DCCN)をコア技術として活用しています。AMED「医療機器開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は協力機関)」に採択され(2023年2月27日適時開示)、2023年4月にPMDA開発前相談を実施し、2024年1月にはPMDAプロトコール相談を完了しました。薬事承認申請のための臨床性能試験を実施し(2024年10月21日適時開示)、目標症例数である150症例の登録を達成し(2025年4月9日適時開示)、最終的な解析結果は正解率92.2%と当初設定していた主要評価項目の目標正解率80%を10%上回り、専門医に対するプログラム医療機器の非劣性(同等)が実証されました(2025年10月20日適時開示)。また、AMEDより本事業の実用化を加速するための研究費(調整費)143,000千円の追加配賦を受けました(2025年9月10日適時開示)。本プログラム医療機器の実用化に向けて、東レ・メディカル株式会社(2023年12月8日適時開示)、ニプロ株式会社(2024年3月14日適時開示)と共同開発契約を締結しました。さらに、薬事承認申請や事業化に向けた取組みを加速するため、ニプロ株式会社との間で共同開発契約の変更に関する覚書を締結しました(2025年10月30日適時開示)。2022年10月に基本となる知的財産権を出願し、2023年5月に国際出願、2024年1月には新たな知財を追加出願しました。
(c) RSAI03(糖尿病治療支援プログラム医療機器)
糖尿病の血糖値を厳格にコントロールし、糖尿病合併症を予防するためにはインスリン注射治療が必要です。しかし、インスリンの安全な用量域は狭く、過剰投与で低血糖を生じるために、患者ごとに最適な種類と投与量を選定する必要があります。一方、糖尿病専門医は医師全体の2%もおらず、地理的にも偏在しているため、現状では糖尿病患者の主治医が糖尿病専門医であるとは限らず、むしろ非専門医に受診することが多いです。非専門医にも専門医レベルのインスリン治療を実行できるよう支援するプログラム医療機器を東北大学及びNECと共同で開発しています。このプログラム医療機器は、NECが開発したAIであるSkill Acquisition Learning、SAiL(スキル獲得学習)を東北大学で医療用にカスタマイズしたDM-SAiLをコア技術として活用しています。東北大学病院に入院する約1,000名(約1,080,000臨床パラメータ)の患者データに基づく学習が終了し、専門医の処方するインスリンの投与量から2単位程度の誤差で予測するプログラム医療機器が開発できています。AMED「医工連携イノベーション推進事業(開発・事業化事業)(当社が代表機関)」に採択され(2022年4月20日適時開示)、2024年2月にPMDAプロトコール相談を実施し、臨床性能試験のプロトコールが確定しました。薬事承認のための臨床性能試験を実施し(2024年8月19日適時開示)、目標症例数である130症例のデータを取得しました。解析の結果、最終的な正解率は85.46%と、主要評価項目の目標正解率80%を上回る結果であり、専門医に対するプログラム医療機器の非劣性(同等)が実証され、総括報告書をまとめました(2025年3月6日適時開示)。2022年6月に基本となる知的財産権を出願し、2023年4月には国際出願を行いました。また、東北大学とユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のマッチングファンドに採択され、国際共同研究を推進しています(2026年3月3日適時開示)。
(d) RSAI04(嚥下機能低下診断プログラム医療機器)
加齢に伴い口腔機能が低下しますが、その状態(オーラルフレイル)を放置すると摂食障害や構音(発話)障害等多くの身体的、社会的障害、さらには全身性の筋肉虚弱(フレイル)につながるため、早期の診断と適切な処置が重要です。高齢社会において口腔機能低下のひとつである摂食嚥下障害は増加し、高齢者の主な死因とされる肺炎の約7割が誤嚥によるとの報告もあります。誤嚥性肺炎の予防には嚥下機能低下の早期発見とリハビリテーション等の治療介入が重要ですが、現在では、嚥下内視鏡検査、嚥下透視検査方法等患者負担の大きい嚥下評価法しかありません。嚥下と会話で使用する器官は舌や口腔・咽頭等共通部分が多く、会話から嚥下機能を評価できる可能性に着目し、嚥下機能障害を会話時の音声データから評価可能なプログラム医療機器を東北大学、NECと共同で開発しております。既に、健常者と嚥下機能低下患者の音声を区別できるプログラム医療機器を開発し、2023年3月に基本となる知的財産権を出願しました。さらに、2023年12月にはPMDA開発前相談を実施しました。
上記の実用化に向けたプログラム医療機器の開発研究に加えて、下記の複数の探索的な研究開発を進めています。
(e) 探索研究(乳がん病理診断プログラム医療機器)
乳がんは日本人女性のがんの中で最も患者数が多く、生涯に乳がんを患う日本人女性は11人に1人と言われています。しこりや画像診断等で乳がんが疑われた場合、最終診断は病理診断ですが、診断には経験を積んだ病理医が必要です。当社は東北大学大学院医学系研究科病理検査学教室と共同で、病理画像から乳がんの病変部を検出するAIを開発しています。探索研究段階では、検出モデルを3クラス(良性、非浸潤がん、浸潤がん)または2クラス(良性、悪性)で分類し、それぞれ88.3%と90.5%での診断精度を達成しました(科学誌『Journal of Pathology Informatics』に掲載)。
さらに、この技術を応用し、乳がんの術中迅速病理診断56)の支援のためのAI開発に取り組んでいます。術中迅速診断は、乳がんの外科手術の範囲などを決定するための病理診断として極めて重要ですが、限られた時間や人材(病理医)で対応しなければならず、乳がんの病理診断に対して高い専門性を有する病理医が必要とされます。標本受領から10–20分以内に診断を下さねばならず、加えて凍結切片57)の品質は相対的に低下する傾向があります。これらの課題を解決するために、術中迅速診断の支援のためのAIを開発しました。2025年12月に本AIについての論文が掲載されました(科学誌「The Tohoku Journal of Experimental Medicine」)。
(f) 探索研究(心臓植込み型電気デバイス患者における不整脈・心不全発症予測プログラム医療機器)
心不全患者には植込み型除細動器(ICD)、両心室ペースメーカ(CRT-P)など心臓植込み型電気デバイスが広く使用されます。これら心臓植込み型電気デバイスを活用することで、自宅にいながら、刻々と変化する生体情報の経時的な遠隔モニタリングが可能となります。当社は、東北大学と共同で、心臓植込み型電気デバイス患者の遠隔モニタリング情報を活用し、心不全及び致死性不整脈の発症を事前に予測するAIを東北大学大学院医学系研究科循環器内科学教室と共同で開発しています。
(g) 探索研究(人工心臓患者における血栓発生予測プログラム医療機器)
植込み型補助人工心臓は末期心不全患者の生命維持には欠かせない治療ですが、血栓など合併症が課題です。当社は、株式会社ハイレックスメディカル及び東北大学と共同で補助人工心臓の血栓発生を予測するAIの開発に取り組んでいます。本AIの開発等に関して株式会社ハイレックスコーポレーション及び株式会社ハイレックスメディカルとの共同研究契約を締結しました(2022年9月1日適時開示)。
e.診断薬:血中フェニルアラニン測定キット
フェニルケトン尿症は、適切な治療を行わないと知能発達遅延等の重篤な症状が出現します。1977年に生後マス・スクリーニング検査が実施され、ほぼ全ての患児が早期に発見されるようになりました。フェニルケトン尿症の治療には、フェニルアラニンを制限するための食事療法を正しく行う必要があり、定期的な医療機関での検査が必要ですが、数ヶ月に1度の採血では、きめ細やかな食事管理ができません。自宅で簡便かつ正確に血中フェニルアラニン濃度を測定するシステムを、東北大学大学院医学系研究科小児科学教室と共同で開発しています。糖尿病患者での自己血糖管理のように、家庭でいつでも自己測定が可能になれば、フェニルケトン尿症を有する患者のきめ細やかな食事管理が実現できます。2021年5月には診断薬に関する特許を東北大学と共同で出願し、同年6月にはPMDA相談を行いました。2023年5月に本研究内容が科学誌『Molecular Genetics and Metabolism Reports』に掲載されました。
1)PAI-1: Plasminogen activator inhibitor1の略。分子量約42,700のタンパク質であり、主に血管内皮細胞と肝細胞から合成分泌されますが、脂肪細胞等ほかの細胞からの分泌合成も確認されています。組織型プラスミノーゲンアクティベーターやウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクティベーターと1:1で結合して阻害することによって血栓の溶解を調節する作用を持ちます。
2)悪性黒色腫:悪性黒色腫は皮膚がんの一種で、皮膚の色と関係するメラニン色素を産生するメラノサイトという皮膚の細胞が悪性化してできる腫瘍です。皮膚がんの中でも転移率が高くきわめて悪性度が高いとされています。悪性黒色腫患者の罹患率は本邦では10万人に1.5~2人と少ないですが、米国では21.0人、オーストラリアでは33.6人と日本人の数十倍の罹患率です。悪性黒色腫は悪性度の高いがんです(5年生存率は、がんの大きさが4mmを超えると50%程度、所属リンパ節転移がある場合は40%程度、遠隔転移がある場合は数%)。さらに、本邦における悪性黒色腫の進行の程度は米国と比べて3倍程度高いことが報告されています。これは、本邦の悪性黒色腫が遺伝的に欧米とは異なっているために治療薬が奏効しづらいためと考えられます。
3)Senolytic drug:がん化を促進する事なく老化関連疾患を抑制することをsenolyticsといい、その作用を有する医薬品をsenolytic drugと言います。老化(senescence)と対抗(lytics)を組み合わせた言葉で、「老化防止」を意味します。
4)骨髄ニッチ: 造血幹細胞は骨髄の中にある特別な環境「ニッチ」によって分裂しないように静止状態を維持され、必要に応じた自己複製能力と老化して機能を失わないための仕組みを持っていると考えられています。
5)造血幹細胞: 血球系細胞に分化可能な幹細胞
6)チロシンキナーゼ: たんぱく質を構成するアミノ酸のひとつであるチロシンにリン酸を付加する機能を持つ酵素。プロテインキナーゼの一種。細胞の増殖・分化などに関わる信号の伝達に重要な役割を果たす。遺伝子の変異によってチロシンキナーゼが異常に活性化すると、細胞が異常に増殖し、がんなどの疾病の原因となります。
7)深い分子遺伝的寛解: 現在の慢性期CML治療では高額なTKIを生涯服用する必要がありますが、最も深い治療効果であるDMRを達成し、一定期間維持した一部の患者では、TKIを中止しても再発がないこと(無治療寛解維持;TFR)が近年明らかとなっています。これまでに既存TKIで公表されている1年間(48週)の累積DMR達成率は8-12%(ヒストリカルコントロール)です。なお、DMR維持とは、DMRを達成した状態が一定期間継続することです。
8)ヒストリカルコントロール:過去の臨床試験やデータベース上から得られる患者データ
9)プラセボ対照二重盲検試験:対象患者を無作為に、治験薬(今回はRS5614)を投与する群と対照薬(今回は効果がないプラセボ)を投与する群に分け、医師も患者もどちらが投与されるかを知らない条件で、両群同時に薬を投与する臨床試験方法であり、医師が効果の期待される患者に対して治験薬を投与するなどの機会を減らし、効果があるはずといった先入観が評価に反映される可能性や、患者が知った場合もその処置への反応や評価に影響が生じることを避けるための試験方法です。
10)AMED:国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development)は内閣府所管の国立研究開発法人。医療分野の研究開発の基礎から実用化までの一貫した推進体制の構築、成果の円滑な実用化に向けた体制の充実、研究開発の環境整備を総合的に行うことを目的として2015年に設立されました。
11)免疫チェックポイント分子:免疫の恒常性を保つために、自己に対する免疫応答を阻害し過剰な免疫反応を抑制する分子群です。免疫チェックポイント分子はリンパ球の過剰な活性化を抑制して自己を攻撃させないために存在しますが、がん細胞は免疫系からの攻撃を回避するために免疫チェックポイント分子を悪用します。現在、PD-1、CTLA-4などさまざまな免疫チェックポイント分子が同定されています。
12)ニボルマブ:プログラム細胞死1(PD-1)という免疫チェックポイント分子を標的とする抗体医薬(ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体)で、免疫系の抑制解除による抗がん作用を狙った医薬品です。代表的な免疫チェックポイント阻害薬です。本邦における悪性黒色腫に対するニボルマブの奏効率は22.2%であり、新たな併用療法の開発が望まれています。
13)イピリムマブ:細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)という免疫チェックポイント分子を標的とする抗体医薬(ヒト型抗ヒトCTLA-4モノクローナル抗体)で、ニボルマブとは異なる標的の免疫チェックポイント阻害薬です。ニボルマブ無効例に対して、ニボルマブとイピリムマブとの併用薬として保険適応が認められており、その奏効率は海外21%、国内13.5%と考えられます。しかし、ニボルマブ・イピリムマブ併用療法は、半数を超える患者に重篤な副作用が出現し、単剤投与に比べて投与中止となる重度の免疫関連副作用の発現頻度は4倍と高く、数ヶ月に及ぶ入院やがんに対する治療の中断が必要となることが問題となっています。さらに、高額医療費の課題もあり、抗体とモダリティが異なる経口投与可能で、副作用が少なく、奏効率を上昇させ、安価な併用薬が待ち望まれています。
14)奏効率:固形がんに対する治療効果の判定に用いる一般的な評価基準です。治療開始前に腫瘍の大きさをCTなどの画像診断で計測し、大きな腫瘍を選択して標的病変、それ以外を非標的病変と呼びます。これら病変の治療中の大きさの変化を「完全奏効(CR)」「部分奏効(PR)」「安定(SD)」「進行(PD)」と表します。完全奏効(CR)+部分奏効(PR)の割合を奏効率と定義します。
15)病勢制御率:がん治療の臨床試験で用いられる指標で、完全奏効(CR)・部分奏効(PR)・病勢安定(SD)を達成した患者の割合を示し、がんの進行を抑えられている状態を評価します。
16)希少疾病用医薬品:主に、難病といわれるような、患者の数が少なく治療法も確立されていない病気のための医薬品です。対象患者数が5万人未満、難病などの重篤な疾病が対象、医療上の必要性が高い、代替する適切な医薬品や治療方法がない、既存の医薬品と比較して著しく高い有効性または安全性が期待される、開発の可能性が高いこと、といった指定基準があります。希少疾病用医薬品に指定されると、PMDAの優先的な審査(審査期間の短縮)、薬価算定における市場性加算、さらに承認後の再審査期間が延長されて本治療薬事業の独占期間が長くなります。また、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所を通じての助成金交付などの優遇措置が受けられます。
17)ブリッジングスタディ:ブリッジングスタディとは、海外の治験データを試験実施国の治験データとして代用が可能かどうかを調べる臨床試験のことで、ブリッジング試験ともいわれています。1998年に、新薬申請の国際規格であるICH(日米 EU 医薬品規制調和国際会議)により、海外の治験データを国内の治験データに追加・代用することが認められました。データの代用が可能であると認められるには、外国での新薬の有効性・安全性・薬物動態・用法用量設定などのデータが国内で出したものと一致していることが条件となります。この、データが一致しているかを調査する試験がブリッジングスタディです。海外の治験データを活用することで、国内での重複治験を省略することができ、結果として新薬承認までの期間を大幅に短縮でき、ブリッジングスタディの更なる一般化による、ドラッグラグの解消も期待されています。
18)パクリタキセル:太平洋イチイの樹皮から抗がん作用が見いだされた化学療法剤(抗がん剤)で、現在は化学合成されています。細胞の分裂に関わる「微小管」に結合して、がん細胞の分裂をとめ、死滅させる(細胞死)と考えられています。
19)アポトーシス:不要になった細胞を除去するため、細胞自らがプログラムを作動して自殺する細胞死現象をいいます。
20)皮膚血管肉腫:血管肉腫は皮膚がんの一種で、とりわけ頭皮の血管肉腫は100 万人当たり2.5人程度とまれですが、極めて悪性度が高く、急速に進行し5年の無病生存率は20%以下と報告され、標準的な治療法は確立されていません。
21)無増悪生存期間(PFS):がん治療の効果を評価する指標の一つで、治療開始からがんの進行や再発が確認されるまでの期間、または患者が亡くなるまでの期間を指します。この期間が長いほど、治療の効果が高いです。
22)生存期間(OS):治療開始から患者が亡くなるまでの期間を指し、がん治療の効果を評価する際に用いられる主要な指標のひとつです。
23)JCOG1605:パクリタキセルによる一次化学療法後に増悪もしくは再発した原発性皮膚血管肉腫患者に対する二次化学療法として、パゾパニブ療法の有効性及び安全性の評価を行った試験です。
24)デュルバルマブ:デュルバルマブは、PD-L1という物質に結合して免疫細胞の攻撃力を高める免疫チェックポイント阻害薬です。主に、非小細胞肺がん(特に根治的化学放射線療法後の維持療法)の治療に使用されます。副作用には、間質性肺疾患、肝機能障害など免疫が関わる様々な臓器に影響が出ることがあります。デュルバルマブとニボルマブは、どちらも免疫チェックポイント阻害薬に分類されるがん治療薬ですが、デュルバルマブは抗PD-L1(がん)抗体薬で、ニボルマブは抗PD-1(リンパ球)抗体薬です。
25)地固め療法:初期治療(例:化学放射線療法)でがんをある程度抑えた後、治療効果を維持・強化する目的で行う追加の治療です。再発や進行を防ぐことを狙います。
26)遠隔転移陽性:がんが原発部位である膵臓以外の臓器に広がっている状態を指します。
27)FOLFIRINOX療法:4種類の抗がん剤(フルオロウラシル、ロイコボリン、イリノテカン、オキサリプラチン)を組み合わせて行う化学療法で、主に膵臓がんの治療に用いられます。複数の薬剤を組み合わせることで、がんの増殖をより強く抑える効果が期待されます。
28)上皮間葉転換(EMT):細胞と細胞が接着することによって組織を形成している上皮細胞が、可動性の高い間葉系の細胞に変化する現象です。組織の線維化、がんの浸潤、転移を促進する一つのきっかけとなります。
29)腫瘍浸潤マクロファージ(TAM):腫瘍浸潤マクロファージは、がん組織に集積する免疫細胞の一種で、この細胞の浸潤度が高いことは、患者の予後不良と関連しています。具体的には、細胞増殖因子の産生とがん細胞の増殖、血管新生因子の放出と腫瘍への血液供給を増加、さらにがん細胞の周囲組織への浸潤や転移を促進します。
30)がん関連線維芽細胞(CAF):がん間質(がん細胞を支える組織)に存在する線維芽細胞で、がん細胞の周囲に豊富な細胞外基質(コラーゲンなど)を沈着させ、物理的な障壁として機能します。これにより、抗がん剤や免疫細胞のがん組織への到達が妨げられ、治療効果を低下させます。また、がん関連線維芽細胞は腫瘍免疫微小環境を調節し、T細胞などの免疫細胞の機能を抑制することで、がん免疫の作用を減弱します。
31)酸素化悪化指標スケール:被験者の酸素化の状況を、酸素なし(0点)~人工呼吸器エクモ装着(5点)までの点(例えば、酸素投与2L以上、5L未満は2点)を毎日付けて14日間の合計で比較
32)中等症Ⅰ患者:定義は「新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き、第10.0版」に記載
中等症Ⅰ:新型コロナウイルス感染症で、血中の酸素の値が93%から96%の間で、呼吸困難や肺炎所見が認められるが、呼吸不全はなく、酸素投与治療は行われていないステージ
中等症Ⅱ:血中の酸素の値が93%以下で、呼吸不全があり、酸素投与治療が必要なステージ
重症:集中治療や人工呼吸器が必要なステージ
33)レイノー症状:冷たいものに触れると手指が蒼白~紫色になる症状で、冬に多く見られ、初発症状として最も多いものです。
34)強皮症腎クリーゼ:腎臓の血管に障害が起こり、その結果高血圧が生じるものです。急激な血圧上昇とともに、頭痛、吐き気が生じます。
35)肺動脈性肺高血圧症:ヒトが生きるためには呼吸をして大気中の酸素を肺に取り込む必要がありますが、肺で呼吸するだけでは体の中に酸素は取り込めません。肺に取り込んだ酸素を、心臓に一度戻して、さらに全身に送る必要があります。心臓から肺に血液を送るための血管を肺動脈といいます。この肺動脈の血圧が異常に上昇するのが肺動脈性肺高血圧症です。肺動脈の圧力が上昇する理由は、肺の細い血管が異常に狭くなり、また硬くなるために、血液の流れが悪くなるからです。必要な酸素を体に送るためには、心臓から出る血液の量を一定以上に保つ必要があります。狭い細い血管の中に無理に血液を流すように心臓が努力するために、肺動脈の血圧が上昇します。肺動脈性肺高血圧症は難病に指定されています。
36)抗線維化薬:その名の通り、組織の線維化を抑える薬です。線維化がおきていると判断される方や今後、線維化が進行することが予想される患者さんに処方されることがあります。抗線維化薬にはピルフェニドンとニンテダニブの2種類があります。
37)%FVC:空気を最大限吸い込んだ後、一気に勢いよく吐き出した時の肺活量です。主に拘束性換気障害(肺の膨らみが悪い状態)の診断に用いられ、80%以上が正常値とされています。
38)mRSS:皮膚の硬化の程度をスコア化して評価する指標です。
39)細胞老化:生物の細胞は、細胞老化と呼ばれる現象のために、無制限に増殖することはできません。この現象には、遺伝子のテロメア長の短縮、p53 などの細胞老化因子が関与しています。老化した細胞は、p53 に加えて、PAI-1の発現が極めて高いことが分かっています。p53 やPAI-1を抑制することで、細胞老化の現象は阻害できることが明らかになりました。
40)テロメア長:テロメアは染色体の末端に存在する構造で、細胞分裂のたびに短縮することが知られています。テロメア長は細胞の寿命や老化と密接に関連しており、その維持は健康や加齢に伴う疾患の予防に重要な役割を果たします。
41)細胞周期調節因子:老化細胞は細胞周期が停止していますが、静止細胞と異なり老化細胞はどのような生理学的刺激を受けても細胞周期を再開することがありません。細胞周期の停止には、p53、p21、p16ink4aなどの因子が関与しており、老化細胞のバイオマーカーともなっています。
42)老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)染色:SA-β-gal は、細胞が老化する過程でリソソームに蓄積される酸性β-ガラクトシダーゼのことです。老化細胞では、この酵素の活性が上昇するため、老化の指標として利用されます。
43)細胞老化随伴分泌現象(SASP:senescence-associated secretory phenotype):老化細胞から分泌されるIL‑6などの炎症性サイトカイン、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子、プロテアーゼを含む分子群で、老化バイオマーカーの一つとして位置づけられます。
44)DNA損傷応答:DNA二本鎖断裂などのDNA損傷は、細胞老化で見られる特徴の一つです。老化細胞では持続的なDNA損傷応答がみられ、最終的に細胞周期の停止を誘導します。
45)ハッチンソン-ギルフォード症候群:早老症は、幼い頃から体が実際より早く老化する病気の総称です。ウェルナー症候群、ハッチンソン-ギルフォード症候群など約10種類の疾患が含まれます。ハッチンソン-ギルフォード症候群は、遺伝性早老症の中でも特に症状が重い疾患で、動脈硬化による脳や心臓の重篤な血管障害が10代で起こることが多く、平均寿命は14.6歳と報告されています。
46)klothoマウス:klothoマウスは寿命が8〜10週と短く、その短い寿命の間に骨粗鬆症や動脈硬化というようなヒトの老化症状に類似した多彩な症状を示します。この表現型は一種の早老症と考えられ、ヒト老化のモデル動物としての可能性が注目されています。
47)ウェルナー症候群:思春期以降に「白髪・白内障・難治性潰瘍」など、実年齢よりも老化が促進された症状を呈する早老症の1つで、常染色体劣性遺伝疾患です。
48)アーミッシュ:アメリカ合衆国の中西部などに居住する集団であり、移民当時の生活様式を保持し、農耕や牧畜によって自給自足の生活をしています。
49)XPRIZE財団:イーロンマスク氏などがスポンサーとなり、人類のための根本的なブレークスルーをもたらすことによって、新たな産業の創出と市場の再活性化を刺激することを使命とし、様々な世界的な挑戦的コンペティションを開催する財団です。
50)セミファイナル臨床試験:50歳以上の少数例(20名以内)を対象とし、1~2ヶ月間の短期間の治療介入効果を評価する臨床研究となります。介入効果に加えて、安全性と被験者保護の対応、認定臨床研究審査委員会(CRB、Certified Review Board)の承認、患者登録の実現性、データの収集・管理・提出能力などを総合的に評価します。
51)ファイナル臨床試験:50歳以上の100名程度(200名以内)を対象とし、1年間の治療介入効果を評価する計4年間のクロスオーバー対照臨床研究となります。対照群と比較して、治療介入群が設定された3つの評価機能(筋肉、認知、免疫)すべてにおいて、少なくとも10年以上の機能改善を実証することを目的とします。
52)OTC医薬品:医師に処方してもらう「医療用医薬品」ではなく、薬局やドラッグストアなどで処方箋なしで購入できる「要指導医薬品」と「一般用医薬品」のことをいいます。要指導医薬品は、OTC医薬品として初めて市場に登場したもので慎重に販売する必要があることから、薬剤師が当該医薬品に関する説明を行うことが義務付けられています(インターネット等での販売は難しい)。要指導医薬品以外のOTC医薬品を一般用医薬品といいます(分類によっては薬剤師の説明が必要)。
53)ピリドキサミン:ビタミンB6の化合物のひとつです。
54)ファイバースコープ(使い捨て):ディスポーザブル極細内視鏡の本体です。先端部は径1mm程度で、腹部に留置されているチューブの中を通ります。
55)ガイドカテーテル(使い捨て):ファイバースコープと組み合わせて使用することでファイバースコープの先端部分を自由に動かすことができます。ガイドカテーテルを使用しなくても、ファイバースコープのみで腹膜の状態を観察することが可能ですが、使用することで操作性が向上します。
56)術中迅速診断:手術中に摘出した組織を凍結して短時間で顕微鏡観察し、がんを診断する方法です。
57)凍結切片:手術中に乳がんなどの腫瘍から採取した組織を急速に凍らせて薄く切り、顕微鏡で観察することで診断を行う方法です。手術中に腫瘍の切除範囲が十分か、リンパ節に転移があるかなどを短時間で確認でき、必要に応じてその場で追加切除などの手術方針を決定するために用いられます。
次事業年度(2026年4月1日から2027年3月31日)の事業収益は、マイルストーン収入やAMED採択プロジェクトに係る受託研究収入などの計上により、43百万円を見込んでおります。
また、事業費用については、慢性骨髄性白血病(CML)・悪性黒色腫に係る第Ⅲ相医師主導治験費用、皮膚血管肉腫に係る次相試験費用、非小細胞肺がん・膵臓がんに係る第Ⅱ相医師主導治験費用、抗加齢作用を評価する臨床研究、動物用医薬品などの研究開発費に加え、人件費等の一般管理費の合計で627百万円を見込んでおります。
以上により、通期の業績見通しは、事業収益43百万円(前事業年度比36.4%の減少)、営業損失585百万円(前事業年度は356百万円の損失)、経常損失547百万円(前事業年度は300百万円の損失)、当期純損失548百万円(前事業年度は301百万円の損失)としております。
なお、当社パイプラインには、現在、薬事承認済のディスポーザブル極細内視鏡や治験・開発フェーズが後期段階にあるパイプラインが複数存在しており、今後、治験・開発や導出先企業との交渉が順調に進んだ場合、多額の契約一時金やマイルストーン収入などを計上する可能性があります。一方で、治験・開発の進捗や企業との交渉については不確実性が存在するため、上記見通しには現段階で期待される全ての収益を計上しておりません。未計上となっている収益については、今後、収益計上が確実になった段階で適時に見通しを明らかにしていく予定です。
参考:創薬系バイオベンチャー企業について(東京証券取引所)
https://www.jpx.co.jp/listing/others/risk-info/tvdivq0000001rss-att/cg27su00000032aa.pdf
2.会計基準の選択に関する基本的な考え方
当社は、財務諸表の期間比較可能性及び企業間の比較可能性を考慮し、当面は、日本基準で財務諸表を作成する方針です。なお、国際会計基準の適用については、国内外の諸情勢を考慮の上、適切に対応していく方針です。
3.財務諸表及び主な注記
前事業年度(自 2024年4月1日 至 2025年3月31日)
当事業年度(自 2025年4月1日 至 2026年3月31日)
該当事項はありません。
(株主資本の金額に著しい変動があった場合の注記)
当社は、2025年11月28日開催の取締役会において、米国の機関投資家であるHeights Capital Management, Inc.が運用するCVI Investments, Inc.(以下、「割当予定先」という。)との間でのEquity Program Agreement(以下、「エクイティ・プログラム契約」という。)を締結し、エクイティ・プログラム契約に基づき設定された株式及び新株予約権発行プログラム(第1回発行乃至第4回発行により当社普通株式(総計1,065,200株)及び当社新株予約権(総計6,923個(潜在株式数:692,300株)が発行されるプログラム)の下、第1回発行として、2025年11月28日付で割当予定先に対する第三者割当による新株式及び株式会社レナサイエンス第4回新株予約権の発行を、第2回発行として、2025年12月19日付で割当予定先に対する第三者割当による新株式及び株式会社レナサイエンス第5回新株予約権の発行を、第3回発行として、2026年2月18日付で割当予定先に対する第三者割当による新株式及び株式会社レナサイエンス第6回新株予約権の発行を、第4回発行として、2026年3月11日付で割当予定先に対する第三者割当による新株式及び株式会社レナサイエンス第7回新株予約権の発行を決議し、2025年12月15日に第1回第三者割当について、2026年1月5日に第2回第三者割当について、2026年3月5日に第3回第三者割当について、2026年3月26日に第4回第三者割当について払込手続が完了いたしました。
これらにより、資本金及び資本準備金がそれぞれ945,614千円増加しております。
(収益認識関係)
顧客との契約から生じる収益を分解した情報
前事業年度(自 2024年4月1日 至 2025年3月31日)
(単位:千円)
当事業年度(自 2025年4月1日 至 2026年3月31日)
(単位:千円)
(セグメント情報等)
当社の事業は、医薬品・医療機器などの開発・販売等のみの単一セグメントであり重要性が乏しいため、セグメント情報の記載を省略しております。
該当事項はありません。
(注) 1.2025年3月期の潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、希薄化効果を有する潜在株式が存在しないため、記載しておりません。
2.2026年3月期の潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、希薄化効果を有する潜在株式が存在するものの、1株当たり当期純損失のため、記載しておりません。
3.1株当たり当期純利益又は当期純損失(△)の算定上の基礎は、以下のとおりです。
4.1株当たり純資産額の算定上の基礎は、以下のとおりです。
該当事項はありません。